この記事は、Magdalena Firlit さんの「Why Agile Transformations sometimes fail」を翻訳したものです。翻訳は Magdalena さんの許諾をいただいています。誤訳、誤字脱字がありましたら、ご指摘ください。
2010年よりアジャイル環境下で働いてきた経験に基づいて、いくつかの調査と全般的な観察をしてきました。ビジネスドメインやプロダクトの領域に関係なく、アジリティ(機敏性)の向けた取り組みを台無しにしてしまうような共通の法則がいくつかあります。
- アジャイルトランスフォーメーションの法則
- アジャイルトランスフォーメーションがうまくいかない理由
- CレベルやVP、シニアディレクターがプロセスに無関心
- 価値や顧客への関心が低い
- 階層構造と文化
- 経験主義への理解不足
- ミドルマネジメントの支援不足
- プロジェクト思考な組織(プロダクト思考ではなく)
- 透明性と信頼関係が低い
- アジリティに取り組む理由が漠然
- フレームワークを機械的に理解し取り入れている
- デリバリーをより複雑にする組織構造
- 部門間での争い
- プロセスを形成する伝統的な(従来の)契約
- 顧客やユーザーとの連携が限定的
- 変化に対して社員の関与が低い
- チームの自己組織化が歓迎されない
- 革新できない
- 実験と学習への耐性が低い
- 解決しない妨害要因
- アジャイルトランスフォーメーションの詳細な計画を求められる
- アジャイル診断レポートは無視される
- 変化への恐れ
- アジャイルコンサルタントに耳を傾けない、スクラムマスターに権限がない
- まとめ
- 本記事の翻訳者:
アジャイルトランスフォーメーションの法則
まず最初に、アジャイルトランスフォーメーションは決して終わることがないことを強調しておきます。アジャイルトランスフォーメーションは、継続的な改善、検査と適応の継続的なプロセスであるからです。しかしながら、場合によっては、成果(アウトカム)が不十分である場合もあります。
次に、組織によっては、アジャイルトランスフォーメーションに何年もかかるが、結果が満足いくものではないこともあります。このプロセスに関係する人たちは、次のように自問自答するかもしれません:
なぜそうなるのか?
何が起きたのか?
何がいけなかったのか?
そして、「私たちは違うのです。アジャイルは私たちのために設計されたものではありませんよ」というように、アジャイルを非難したり、アジリティのための努力をやめてしまうこともあります。
現在の結果が期待に沿っていなかったとしても、他の組織において、内省のプロセスと行動は極めて重要です。これが改善への第一歩となります。
さらに、多くの企業では、部門やプロダクトによってアジャイルの導入に大きな違いがあることがわかりました。これは、いくつかのプロダクトや部門全体がアジャイルを念頭において作業をし、行動してきたことを意味しています。そして、顧客に提供する価値が並外れていました。同時に、他のエンタープライズ部門では、行き詰まっており、アジリティからあまり多くの恩恵を得ることができませんでした。
アジャイルトランスフォーメーションがうまくいかない理由
アジャイルトランスフォーメーションが失敗したり、また、単に成果が出にくいのにはいくつかの理由があります。興味深いことに、これら全ての状況に共通点があるのです。以下のリストは全てのケースをカバーしているわけではありません。このリストには、組織のアジリティを妨げる最も一般的な理由を示します。環境がどのように設定されているかを意識することが、これらの妨害要因を理解し、透明化するための鍵となります。
CレベルやVP、シニアディレクターがプロセスに無関心
トップマネジメントによるアジャイルへの取り組みに対する態度が、プロセス全体に影響を与えます。私のランキンで最も多い理由が、この放漫なマネジメントです。ボトムアップでのアジャイルトランスフォーメーションが成功したことは、私のキャリアにおける例としてはあまり多くありません。よくあるのは、トップマネジメントはチームに任せているものの、社内のアジャイル活動、すなわち、スクラムの導入についてある時点で意識しています。この振る舞いが頻繁に起こる理由のひとつは、トップマネジメントは、アジリティがビジネスやプロダクト、そして、もっとも重要な顧客とユーザーにとって有益であるという理解が不足していることです。
トップマネジメントは、アジャイルやスクラム、そしてリーンは、デリバリーやチームの生産性を向上させるためのものだと考えているのです。
多くのスクラムマスターが同一の妨害要因をレポートした状況を想像してみましょう。それはもう、組織的な妨害要因なのです。意思決定者が関心を示していない場合、どのようにこの問題を解決しますか?チームのエンゲージメントとプロダクトのデリバリーにどのような影響があるでしょうか?
アジリティと経験的な方法を促進し、プロセス全体に積極的に取り組むようなアクティブなマネジメントは、トランスフォーメーションをより現実的にする秘訣です。
価値や顧客への関心が低い
私が行ったもう一つの観察は、デリバリーや生産性、テクノロジー、効果性に強くフォーカスしたものです。このリストの一番上に、価値と顧客志向のマインドセットを加えたとしても何も悪いことはありません。私たちは、多くのユーザー機能を提供するかもしれませんが、まだより大きな価値を提供していないかもしれません。
階層構造と文化
組織における階層構造は、以下の事項をもたらします:
- 恐怖
- プレッシャー
- 形式的
- 伝統的な(従来の)マネジメント
- 透明性の欠如
- 政治
- 否定的な結果
これらにより、以下を妨げることになります:
- 信頼関係
- 社員満足度
- エンゲージメント
- 文化
- 創造性
- モチベーション
- 自己組織化
- アジャイルリーダーシップ
- トランスフォーメーション(変革)
企業文化は、行われている価値観や信念が反映されます。企業のポジティブな文化は、顧客満足度や、社員満足度、収益の向上として反映されるのです(ハーバードビジネスレビューの研究結果に基づく)。
経験主義への理解不足
複雑な環境下では、唯一の答えは、経験主義です。これは、頻繁な検査と適応、そして、透明性を意味しています。
この考え方は、組織のアジリティを可能にするために極めて重要です。
ミドルマネジメントの支援不足
残念ながら、ミドルマネジメント層の態度が、アジャイルトランスフォーメーションの失敗理由の場合があります。支援の欠如やアイデアや変化を阻止することさえもよく行われているのです。多くの場合、この振る舞いは、仕事や権力、制御権を失う恐怖に基づいています。それとは反対に、アジャイルに取り組む過程で、マネージャーたちがいなくなっているのをいつもみてきました。
マネージャーは、チームやビジネス、トップマネジメント、顧客などにおいて、アジャイルを可能にするための妨害要因を取り除くだけの十分なチカラを持っています。
プロジェクト思考な組織(プロダクト思考ではなく)
特に大規模な組織では、プロジェクトや従来の予測的なマインドセットが依然として支配的です。従来のプロジェクト管理に強い愛着があったり、習慣があったりするかもしれません。プロダクトは、定義済みになることがほとんどありません。このアプローチでは、プロジェクトの時間とスコープと予算が固定されているため、検査と適応し、顧客に最適な価値を提供する機会がほとんどありません。結局、反復的なウォーターフォール(スクラムフォール (Scrumfall) やワジャイル (Wagile) など)になってしまいます。
透明性と信頼関係が低い
これはアジリティ向上への極めて重要な妨害要因のひとつです。すぐに発見して、明らかにすべきです。このような状況では、どのような変化も前に進めるのは難しいでしょう。
アジリティに取り組む理由が漠然
私が出会ったいくつかの企業は、以下の質問に明確に答えられませんでした:
アジャイルに取り組みたい(移行したい)理由はなんでしょうか?
多くの場合、その理由として、より早期にマーケットに投入したいであったり、他の企業のようにアジャイルになりたい、…というのが挙げられます。私はこれらの理由を責めることはしません。私が明確にしておきたいのは、意図的な理由が、トランスフォーメーションをより成功に導くということです。
フレームワークを機械的に理解し取り入れている
既にスクラムを採用している企業ならば、フレームワークを機械的に取り入れて理解しているのが普通です。
スクラムのフレームワークに関する誤解は、企業においてよく見受けられます。ベロシティや、ストーリーポイント、完璧に記述したユーザーストーリー、アウトプットのデリバリーに重点が置かれています。価値のデリバリー、リリース判断可能なインクリメント、顧客満足ではなくです。
機械的にスクラムを実践することは、(経験的でプロフェッショナルなスクラムに対して)常にゾンビスクラム(Zombie Scrum)と呼ばれるものに繋がりします。すなわち、スクラムからの恩恵を得ていません。組織は、成果(アウトカム)よりも、アウトプットにフォーカスしてしまっています。
デリバリーをより複雑にする組織構造
会社がどのように組織化されているか、構造化されているか、デリバリーのフローをどのように定義しているかは、多くの側面で多大な影響を与えています。これは、特にエンド・ツー・エンドのプロダクトデリバリーにおいて、多くの部門やチームを経由しなければならない組織では、顕著に現れます。このアプローチでは、通常、官僚的なプロセスが求められますが、それは単に不必要なオーバーヘッドに過ぎません。このような組織では、通常、プロダクトよりも、プロジェクトに重点を置いています。プロダクト指向の構造では、ソリューションと同一プロダクトに重点を置いた専門のチームになります。これは、コンテキストの切り替えを削減できるのです。
部門間での争い
以下のようないかなる組み合わせの間でも、意見の相違や非難ゲームが発生しうるのです:
- ビジネス部門とIT部門
- IT部門の内部
- ビジネス部門の内部
このような状況を何度か目にしたことがありますが、これらはアジリティに対して大きな妨害要因と考えています。
プロセスを形成する伝統的な(従来の)契約
伝統的であったり、従来のままの契約は、より細かく、範囲が決まっていて、時間と予算も決まっているで構成されます。このような状況では、特に数年先の契約の場合、顧客の強い関与と協力の仕方を変えることに合意がなければ、アジャイルな仕事の仕方をとることが難しいです。
顧客やユーザーとの連携が限定的
組織によっては、チームが顧客と直接協力することが許されない場合があります。このような緊密なコラボレーションを阻害することで、エンゲージメント、プロダクト、顧客の理解、マーケットへの迅速な対応、ユーザーのニーズが限定的になってしまいます。
変化に対して社員の関与が低い
トランスフォーメーションに対する社員のコミットメントや、アジャイル環境で働くことへの意欲は、不可欠です。アジャイルトランスフォーメーションには、企業の全ての層による遂行が不可欠なのです。変化に対して社員の関与する程度が低いと、アジリティに向けたすべての努力が無駄になることがあります。よくあるのは、複雑な環境下で求められる経験主義への理解不足と、機械的なスクラムフレームワークの実践が原因になります。しかしながら、組織の全般的な文化にも原因がある場合があります。
チームの自己組織化が歓迎されない
チームを自己組織化することに関して、深い抵抗と誤解があることがあります。よくあるのは、自己組織化は、混沌を招くことや、冗長になることへの恐れと考えられてしまいます。そして力を失っていきます。
革新できない
莫大な技術的負債や、発散的なリソース、継続的インテグレーションの欠如などが、組織のアジリティへの道筋のもう一つの妨害要因になるかもしれません。
実験と学習への耐性が低い
検査して適応しようとしても、どんな厳密な調査も許されないことがあります。短期間(で低コストな)の実験も歓迎されません。
解決しない妨害要因
一般的に知られている妨害要因が、重大なものであることを組織が認識していたとしても、それを解決する責任を感じている人は誰もいないことがあります。
アジャイルトランスフォーメーションの詳細な計画を求められる
アジャイルトランスフォーメーションの詳細な計画を求められることがあるでしょう。アジャイルの導入過程も経験的なのです。重要なゴール(複数可)を持つことが大事です。詳細な長期的な計画は、時間の経過と伴にどんどん学んでいく上では、現実的ではありません。頻繁に検査し、適応していく必要があるからです。
アジャイル診断レポートは無視される
多くの企業では、診断を求めてきます。そうは言っても、多くの場合、これがやりたいことのすべてです。診断レポートや当初の提案によって変更することはありません。この態度は以下の理由を関連しているのです。
変化への恐れ
人によっては、仕事でもプライベートでも変化を嫌がります。新しい組織体制や、新しい役割の責務を恐れ、権限や仕事を失うことを恐れます。アジャイルトランスフォーメーションでは、企業のさまざまな側面で多くの変化が起こります。しかし、それらは必ずしも仕事を失うことを意味していません。従来の権限がアジャイルリーダーシップに変換される可能性もあります。
アジャイルコンサルタントに耳を傾けない、スクラムマスターに権限がない
私が出会った組織では、スクラムマスターは、チームの秘書、ファリシテーター、書記、ツール管理者などとして認識されています。実際に、スクラムマスターは、チームやプロダクトオーナー、そして組織全体に対してサービスを提供します。この最後の部分が無視されることが多いです。
アジャイルコンサルタントは、組織を「癒す」ために雇われることもありますが、アジャイルコンサルタント(通常は、スクラムマスターと協力して)の持つアイデアや提案、実験は試す価値がないと考えていることがあります。
まとめ
これらの理由は、私の経験上、いくつかの国や大陸でのコンサルティングや教育においてよくあるものを挙げています。あなたは、これらと異なるものを観察してみることもできるでしょう。アジャイルトランスフォーメーションが失敗する理由を診断することが大切です。解決策は、これらのアンチパターンを逆転させることでしょう。必ず実際のデータを示すことを忘れないようにしてください。事実について話すことは絶大な影響力を持ちます。また、感情や感覚、信念についての議論を避けることができます。
アジャイルの実践において、トップマネジメントを巻き込む試みが行われているにも関わらず、彼らのコミットメントのレベルが低いと感じた場合は、事実を透過的に共有し、この放漫さがどのように変革に悪影響を与えるのかを共有するようにしましょう。これによって、手助けとなり、アジリティに対して積極的な変化をもたらす方向に向かうかもしれません。
組織のためのアジャイルジャーニーを成功させる要素は以下です:
- アジャイルリーダーシップ
- 妨害要因を取り除く
- 経験的パラダイム
- 不安へのケア
- トップとミドルのマネジメントの関与
- スクラムマスターとプロダクトオーナーの権限
- 活発な文化とモチベーションの高い社員
- 顧客価値の追求
- 価値の測定
- 事実に基づく意思決定
本記事の翻訳者:
長沢 智治 – アジャイルストラテジスト
サーバントワークス株式会社 代表取締役。Helpfeel Inc. アドバイザリーボード。DASA アンバサダー/認定トレーナー。
『More Effective Agile』、『Adaptive Code』、『今すぐ実践!カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント』、『アジャイルソフトウェアエンジアリング』など監訳書多数。『Keynoteで魅せる「伝わる」プレゼンテーションテクニック』著者。
Regional Scrum Gathering Tokyo 2017, DevOpsDays Tokyo 2017, Developers Summit 2013 summer 基調講演。スクー講師。