はじめに
過去、幾度となくワークグループ(Working Group)とチーム(Team)の違いについては講演や記事でも触れてきました。今回はそれらの続編として書いていきます。具体的には、以下の続編だと思ってください。
ワークグループとチームの違い
ワークグループ | チーム |
---|---|
主語が「わたし」 | 主語が「わたしたち」 |
それぞれの目的 | 共通の目的 |
それぞれのやり方、または標準化したやり方 | チーム独自のやり方 |
分業・分担 | 自己完結 |
統制 | 自律 |
形式知(引き継ぎ)を重視 | 集合知(暗黙知)を重視 |
立ち上げが早い | 立ち上がるのに醸成が必要 |
変化に弱い | 変化に強い |
上の表のようにワークグループとチームの違いを定めたとしましょう。私はよく「同じ景色を見ているか」でどちらなのかがわかると述べてきました。また、どちらが優れているとか二項対立を促したいわけではありません。ただし、この2つの違いを各自、各”グループ”、各組織で認識しておくことは大切だと捉えています。なぜならば、「このチームは、…」、「チームなのだから…」、「チームワークで乗り切ろう」などのように言葉として『チーム』と言うことは多いと思いますが、それが同調圧力となってしまい、無理を強いることになっている現場をよく見てきたからです。
ここで続編として述べておきたいのは、チームは育つということです。あるいはチームは育てていかなければならないと言うべきでしょうか。チームをどう育てるのかというと、仲の良さとかが挙げられがちだと思いますが、ここは踏ん張りどころで定性的すぎるものに頼るのではなく、客観性のある要素で捉えたいものです。例えば、チームのパフォーマンスです。チームがパフォーマンスを発揮できているかは、チームが育っているかの客観的根拠となるはずです。ここでは、これを2つにわけて、チームのパフォーマンス(成果を出せているか)とチームの効果性(成果を出せる状態になっているか)で見ていきます。
ところで、ワークグループは固定した期待値を満たせる固定された枠組みと捉えると育てる必要性はそこまでないはずです。したがって、ワークグループでは、パフォーマンスと効果性はそこそこ期待できるものがわかっているはずであり、またそれを超えていくことはさほど意図されていないのではないでしょうか。したがって、ワークグループにおいて、期待値が変化したり、より大きな成果を期待するのは見当違いなのかもしれません。それらを求めるならば、ワークグループを再編成するしかなさそうです。
チームが育つ
さて、話を戻して、チームは育てなければならず、それらは、アウトカムで測るべきです。なぜならば、チームのアクティビティとアウトプットと、成果は必ずしも一致するものでも、相関関係があるものでもないからです。たくさんの仕事をすれば、良いものが作れるわけでも、満足度が高まるわけでも、ビジネスが成功するわけでもありません。同様にたくさんの機能を作ればというわけでもありません。したがって、アウトカムで測るべきなのです。アウトカムには、対外的なものと、対内的なものがあります。
- 対外的なアウトカム
パフォーマンス。市場価値やビジネス価値、顧客価値に関連する事項。 - 対内的なアウトカム
チームの反応性と効果性。組織的な能力や、能力を発揮できる環境の整備など。
ところで、チームは誰が育てるのでしょうか?私は、チーム自身とチームが身を置く環境(組織、ステークホルダー)の両方であると捉えています。これらについては、こちらをご覧ください。
・【図解】改善と変革を推進するならどれから手をつけるか 〜 個人・チーム・組織
・DXやアジャイル推進における環境育成のステージ
ワークグループがある一定の固定されたアウトカムを前提にしているとするとチームは、それらの期待を超える前提となるわけですが、そのチームを最初から想定して組成することは至難の業です。そこで育成していくというある種のステップが必要となります。すなわち、チームメンバーも、ステークホルダーも育つまでのある種の耐える時期があるはずです。その耐える時期は、場合によってはワークグループよりも対外的なアウトカムが得られないことだって想定されます。この時期を我慢できずに解体されワークグループに戻ってしまった結末を何度みてきたことでしょうか。
因みに、目的もやり方もわかっているならワークグループがおそらく適切なアプローチとなるでしょう。変化に適応したい、複雑な領域である、わかっていることが少ないといった場合は、チームとして取り組んだ方が適切なアプローチになることが多いでしょう。
チームの育成を考えると下図のようなものが容易に想像できます。
ポイントとしては、チームは時間が経てば成長するのかというとそうではないということと、チームだけの努力や理解だけで成長するわけでもないといったところでしょうか。
したがって上図では、X軸を対内的なアウトカム、Y軸を対外的なアウトカムとしています。
なりたてチーム
ワークグループから「なりたてチーム」になるときにはできるだけ時間をかけないほうがよさそうです。「なりたてチーム」はまだチームになっていない状態ですので、チームになるために振る舞いをしていかなければなりません。ゴールの設定として、遠目のゴールであり、ステークホルダーへの”建前”としては、「チーム」として機能することでありますが、遠すぎるゴールは、得てして辛いものです。辛いと幸せは意外と近くにあるものですが、近くの幸せを目指すことでより辛さを幸せに寄せることができるでしょう。よって、チームが立ち上がることをゴールに設定すべきです(「立ち上がったチーム」)。
振る舞いとしては、「チーム仲良く」とかではなく、とにかく事実を拾えるようにするのがよいアプローチとなります。都合の悪いものを隠すとか、既得権益を保持するために情報を握るとかはもってのほかですが、認知負荷を下げたいために情報を抑えてしまったり、他者の邪魔をしたくなく問題を共有しなかったり、自身の不安を封印してしまうことはあるでしょう。また、事実ではなく、憶測、予想、意見、感情が先にでてしまうこともあるでしょう。事実を拾う意識をすると、区別できるようになることが多いようです。その結果、感情、意見を尊重できるようにもなるでしょう。
「なりたてチーム」は、おそらくワークグループと単純比較をしてしまうと、パフォーマンス(対外的なアウトカム)は落ちているかもしれません(劣るかもしれません)。それはどのような取り組みでも最初は生産性が落ちることに由来するものです。ただし、チームとしての効果性は、少しずつワークグループよりも高まっていくはずです。チームの効果性が高まると学習の期間や時間が短縮され、反応性が向上することでパフォーマンスも上がっていきます。それはワークグループのパフォーマンスに追いつき、追い越すタイミングがそんなに長い期間をかけなくてもやってくるでしょう。
立ち上がったチーム
チームがチーム足りえる要素としては、以下があります。
- 共通の目的
- 同じやり方
- 相互補完関係
事実を拾えるようになるとチーム内の透明性が高まります。すると対立しながらも、真の目的を共有できるようになります。目的に対して協働できるようになると、同じやり方を集合知として捉えることができるでしょう。集合知を活かせれば、意思決定(判断)のリードタイムは格段に短くなります。変化に対して速く判断できることは成功に近づく大事な一歩です。
チームが立ち上がってきたら、少しでも先に行くための実験を繰り返せることを目指します。実験には、元となるデータ(事実)が不可欠であり、データに基づく仮説とその結果を伴います。したがって闇雲にやってみるのではなく、科学的アプローチとして結果を実証(または反証)するのです。これをチームでできれば変化へ適応する力をつけていっていることにもなるでしょう。
「なりたてチーム」、「立ち上がったチーム」の段階までは、成果が期待値に到達できていない場合もあるため、この時期は特にマネジメントのサポートが重要です。従来の慣習、報告スタイルなどでは変化に適応できないとしてもそれらをチームに強要することで効果性を下げてしまうことが想像できます。そのほか、チームを成長させながらも、周囲との調整や理解を獲得していく作業はチームには負担が大きいです。それは対内的な取り組みと対外的な取り組みを同時並行かつ多発で考えなければならないと捉えれば容易に想像できることでしょう。したがってこのとくに対外的な部分については、マネジメントがサポートすべきで、さらにマネジメントがチームたち(複数形)をより活動できるように環境を作るために行うべきです。
さらに、チームトレーニングをしていくのもこの段階までに行うべきです。個人作業ではなく、チームで取り組むにはそのための訓練は不可欠です。したがってチームで研修を受ける、ワークショップをやってみる、チームワーク(協調作業)の枠組みを学習するといった取り組みも行うべきです。
サーバントワークスの提供する研修は、チームで受講する前提で設計されています。理由の一つは上述した通りです。
チーム
チームは、チーム内のことはチーム内で判断できている状態といえるでしょう。他の人の判断を待つことなく、また他の人の判断が必要なことをすぐに見極め、迅速に判断をしてもらうことができる状態です。判断するためには、ゴールがどこであり、現在の状態(現状)がどうなっているのかを全員が共通認識していることが不可欠です。
この段階では、チームの外との建設的なやりとりや調整がチームでできるようにもなっているはずです。透明性の範囲をステークホルダーにまで広げて、経験的なアプローチを遂行できようにチャレンジできるはずです。すなわち、外部からの制約をできるだけ少なくし、チーム内部でチームがパフォーマンスを発揮できるようにする有効化のための制約を設けるという作用が働きます(自己設計と自己管理)。
強いチーム
強いチームは、ステークホルダーを含めてハイパフォーマンス(高い対外的なアウトカムを出せる)を発揮できる状態とも言えるでしょう。そのためには、結果が重要です。成果を上げていないチームではステークホルダーの協力は得られないからです。その反面、結果を出すためには、ステークホルダーの協力も不可欠です。強いチームとは、チーム内の努力だけではなし得ない領域と言えるでしょう。したがって、相互依存関係と環境の整備をマネジメント層が中心となって揃えていくことを忘れてはなりません。
強いチームは、対内的なアウトカムにも透明性が高く、チームの中で反応性と効果性を高めていくことができるはずです。短いサイクルで学習でき(T2L: 学習するまでの時間)、検査と適応により立ち止まり、ふりかえり、より効果性を高めていきます。このチームは、対内的なアウトカムの向上が、対外的なアウトカムに不可欠であることがわかっており、そのことをステークホルダーや組織に対しても説明、証明することができるチカラを有しているはずです。
まとめ
組織開発や、アジャイル導入・定着化支援を行っているとこういうことをいつも考えながら、実践しているのですが、たまにはアウトプットもしておこうと思いました。あくまで参考ではあります。また、書いておいてなんですが、そんなに簡単にできることでありません。自前主義も大切ですが、今は外部の頼れるアジャイルコーチなどたくさんいますので、頼ってみるのはいかがでしょうか。
本記事の執筆者:
長沢 智治 – アジャイルストラテジスト
サーバントワークス株式会社 代表取締役。Helpfeel Inc. アドバイザリーボード。DASA アンバサダー/認定トレーナー。
『More Effective Agile』、『Adaptive Code』、『今すぐ実践!カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント』、『アジャイルソフトウェアエンジアリング』など監訳書多数。『Keynoteで魅せる「伝わる」プレゼンテーションテクニック』著者。
Regional Scrum Gathering Tokyo 2017, DevOpsDays Tokyo 2017, Developers Summit 2013 summer 基調講演。スクー講師。