翻訳記事

この記事は、Magdalena Firlit さんの「Success of Implementing EBM」を翻訳したものです。翻訳は Magdalena さんの許諾をいただいています。誤訳、誤字脱字がありましたら、ご指摘ください。

エビデンスベースドマネジメント導入の落とし穴

前回、エビデンスベースドマネジメント(EBM)の導入におけるさまざまな課題について説明しました。EBM を適用する過程では、多くの課題がありますが、大きな結果もあるのです。

エビデンスベースドマネジメントの成功例

EBM フレームワークと意味のある目標を用いることで起きた成功例を紹介します。

適切な方向性、適切な目標、そして、適切な判断

EBM は、戦略的ゴールや、プロダクトゴール、戦術的ゴールを完璧に検証することができるのです。それは、頻繁な検査と適応によって起こります。そうです。経験的なプロセスなのです。EBM の重要価値領域(KVA: Key Value Areas)は、常に最新のデータを表すべきであり、それによって意思決定プロセスがわかりやすく、より透明性が高いものになるのです。

例: この会社には、収益に関する戦略的ゴールがありました。収益を増やすために何度も試みましたが、いつも収益は減少していきました。KVA を計測したところ、組織はクラウドに移行しなければならないことがわかりました。それは、「未実現の価値(UV: Unrealized Value)」である顧客が望むアウトカム(成果)だからです。同社は、「クラウドへの移行」という新たなゴールに向けた進捗状況を計測するために、頻繁なリズム(ケイデンス)を確立しました。その結果、収益は飛躍的に向上したのです。

顧客のアウトカム(満足度)の向上

すべての KVA を計測することが多い組織は、顧客をより良く知り、顧客にインタビューを行い、ユーザーの満足度をより良く満たすために実験を設計して実行しているのです。顧客に価値を提供することが、最も重要なことなのです。このような企業は、価値指向であり、プロダクトと顧客指向なのです。アウトカム(成果)とは、検証や計測ができるものです。顧客の満足度と収益の成長には明白な関連があるのです(詳細はこちらの記事)。

例: ある企業では、顧客のグループに対して多くの実験を行っています。顧客に検証をお願いしたり、プロダクトの使用状況を頻繁に見せてもらったりしているのです。プロダクトは常に顧客に高く評価をされており、顧客満足度も常に素晴らしいものでした。これが「現在の価値(CV: Current Value)」です。この組織は、「学習する組織」になっていたのです。ユーザーが満足する多くのアイデアを実施して、常に改善点を探していたのです。これが「未実現の価値(UV」です。

経験的なアプローチでエラーの少ないプロダクトに

意味のある計測可能なゴールを設定して、KVA を計測したり、仮説を検証するために実験を設計したりすることは、エラーが起こりにくいプロダクトを作るための素晴らしい戦略です。短期間の実験を行い、その結果を計測してすぐに検証するには、「変えるべきものは何か」を迅速に判断する必要があります。実験の結果が満足の行くものでないとしても、そのアイデアが支持できないというだけのことです。不必要であり、ユーザーに価値をもたらさないものに資金を使わなくて済むという素晴らしい情報を得たということです。

例: ある企業では、短いフィードバックループと実験が顧客にとってより価値のあるプロダクトをもたらすと信じていました。実際、頻繁に検証を行うことで、大多数の顧客が満足してくれる優れたプロダクトを作ることができていました。経験的な考え方は、複雑さに対処するための自然な方法として、会社全体で明確に表れていました。

エビデンスに基づく意思決定

4つの重要価値領域(KVA)のすべてにおいて有効なデータを計測することは、より良い意思決定に役立ちします。

例: この組織には、22の大規模なプロダクトからなるプロダクトポートフォリオがありました。正確な計測とエビデンスに基づいたアプローチにより、どのプロダクトに投資をすべきか、または、どのプロダクトに投資をすべきでないかを判断することができるようになりました。この組織では、「現在の価値(CV)」が低く、市場機会(「未実現の価値(UV)」)が少なすぎるプロダクトへの投資は取りやめました。「未実現の価値(UV)」が高いプロダクトに投資をしたということです。最終的には、ポートフォリオは、13のプロダクトとさらにいくつかの可能性があるものに絞られました。

まとめ

一般的には、KVA を意識して、ゴールと経験主義で計測している企業が成功を収めています。多くの事例がこの相関関係を示しているのです。エビデンスベースドマネジメント(EBM)フレームワークは、プロダクトデリバリー、IT、ヘルスケア、薬局、マーケティング、Eコマースなど、さまざまな環境で広く利用されているのです。

謝辞: 2015年に EBM を紹介してくれたRavi Verma 氏と、継続的に応援してくれ、たくさんの経験を共有してくれた Patricia Kong 氏に、感謝します。

Magdalena Firlit さんによる Scrum.org 研修の一覧は こちら

本記事の翻訳者:

長沢智治

長沢 智治 – アジャイルストラテジスト

サーバントワークス株式会社 代表取締役。Helpfeel Inc. アドバイザリーボード。DASA アンバサダー/認定トレーナー。

DASAプロダクトマネジメント認定トレーナー
DASA DevOpsファンダメンタル認定トレーナー

『More Effective Agile』、『Adaptive Code』、『今すぐ実践!カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント』、『アジャイルソフトウェアエンジアリング』など監訳書多数。『Keynoteで魅せる「伝わる」プレゼンテーションテクニック』著者。

Regional Scrum Gathering Tokyo 2017, DevOpsDays Tokyo 2017, Developers Summit 2013 summer 基調講演。スクー講師。

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