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翻訳記事

本記事は、Stefan Wolpers さんによる「Scrum Commitments: Tying Loose Ends and Shoehorning the Definition of Done」の翻訳です。翻訳・公開は、Stefan さんの許諾を得ています。誤字脱字・誤訳などありましたらぜひご指摘ください。

TL;DR: スクラムの確約(コミットメント)

新しい『スクラムガイド』(※訳注: 2020年11月に公開されたバージョン)は、規範的なものではなく、より包括的なものになっています。また、以前のバージョンでは、スクラムの確約(コミットメント)に伴うスプリントゴールと完成の定義が宙に浮いているようなになっていましたが、これらの要素をより良い形で含めることで、未解決の問題を解決しています。

以前のバージョンにとっては、この包括的な部分がとてもうまく機能しますが、最新バージョンに関しては、靴べらが必要です。

パターンを早く見つけるために「Scrum Guide 2020 Reordered 」も読んでください。

スクラムガイド 2020

何よりも、新しい『スクラムガイド』では、多くの提案を削除して、規範的ではないものになっています。例えば、「デイリースクラムでの(3つの)質問」、「レトロスペクティブ(ふりかえり)ででたアクションアイテムのうち少なくとも1つはスプリントバックログに盛り込むこと」、「スプリントのキャンセルが稀なイベントである理由についてのアドバイス」などです。

スプリントレビューは、イベントの運用方法に関する詳細なレシピを失いました。また、明白なことが、もはや記載されていません: スクラムをマスターすることは本当に簡単なことではありません。興味深いことに、著者たちは『スクラムガイド』の2017年版でのその他の要素で、あまり異論がないと思われるものも削除されました。例えば、「プロダクトバックログのリファインメントに費やす作業の大きさ(※訳注: 2017年版では作業の10%が目安と言及されている)」や、「サーバントリーダーシップ」などです。

『スクラムガイド』2020年版で、私の目に留まった変更点は以下の2つです:

  • スクラムの確約(コミットメント)

「各作成物には、透明性と集中を高める情報を提供する「確約(コミットメント)」が含まれている。これにより進捗を測定できる。

『スクラムガイド』2020

スプリントゴール、完成の定義(現在は、「」が付いていない)、そして新しく導入されたプロダクトゴールは、これらすべてがコミットメントとしてスクラムの3つの作成物のうちの1つに関連づけられています。従って、プロダクトゴール、スプリントゴール、完成の定義は、ホームと言えます。

  • プロダクトゴール

プロダクトゴールは、プロダクトの将来の状態を表している。それがスクラムチームの計画の
ターゲットになる。(中略)プロダクトゴールは、スクラムチームの長期的な目標である。

『スクラムガイド』2020

私はこのような包括的なゴールを持っていないスクラムチームに出会ったことはありませんが、おそらくこれは歓迎すべき明確化されたものです。

スクラムの確約(コミットメント)とは何か?

まずは、確約(コミットメント)から見てみましょう:

各作成物には、透明性と集中を高める情報を提供する「確約(コミットメント)」が含まれて
いる。これにより進捗を測定できる。
・プロダクトバックログのためのプロダクトゴール
・スプリントバックログのためのスプリントゴール
・インクリメントのための完成の定義
これらの確約は、スクラムチームとステークホルダーの経験主義とスクラムの価値基準を強化
するために存在する。

『スクラムガイド』2020

全般的にこれはとても理にかなっています。特にプロダクトゴールとスプリントゴールについては理にかなっています。しかし、完成の定義を考えてみると、確約(コミットメント)が「進捗を測定できる集中」を生み出すという考え方はとても難しいでしょう。インクリメントは、完成の定義によって定められた品質標準を遵守する必要があることは自明です。しかしながら、完成の定義を遵守するだけでは、顧客価値を創造するには不十分です。インクリメントがどれだけ優れていても、どれだけDoD(※訳注: 米国国防省)に準拠していても、このインクリメントをリリースすることで顧客に価値があるとは限りません。

スクラムの確約 1: プロダクトゴール

プロダクトゴールの確約をみていきましょう:

プロダクトゴールは、プロダクトの将来の状態を表している。それがスクラムチームの計画のターゲットになる。プロダクトゴールはプロダクトバックログに含まれる。プロダクトバックログの残りの部分は、プロダクトゴールを達成する「何か(what)」を定義するものである。

『スクラムガイド』2020 〜 確約: プロダクトゴール

(スクラムチームは、)一度にひとつの目的(プロダクトゴール)に集中している専門家が集まった単位である。

『スクラムガイド』2020 〜 スクラムチーム

スクラムチームは、主要なステークホルダーに作業の結果を提示し、プロダクトゴールに対する進捗について話し合う。

『スクラムガイド』 2020 〜 スプリントレビュー

プロダクトゴールは、スクラムチームの長期的な目標である。次の目標に移る前に、スクラムチームはひとつの目標を達成(または放棄)しなければならない。

『スクラムガイド』 2020 〜 確約: プロダクトゴール

インクリメントは、プロダクトゴールに向けた具体的な踏み石である。

『スクラムガイド』 2020 〜 インクリメント

プロダクトゴールは、これまで多くのスクラムチームが実践してきたことを「成文化」しています。これによって、スクラムチームがどこに向かっているかについて、すべてのチームメンバー間で共有理解を生み出すことに役に立ちます。プロダクトオーナーにとっては特に役に立ちます。この点で『スクラムガイド』2020年版への有益な追加です。

スクラムの確約 2: スプリントゴール

次の確約はスプリントゴールです:

スプリントバックログは、スプリントゴール(なぜ)、スプリント向けに選択されたいくつかのプロダクトバックログアイテム(何を)、およびインクリメントを届けるための実行可能な計画(どのように)で構成される。

『スクラムガイド』 2020 〜 スプリントバックログ

スプリントゴールはスプリントの唯一の目的である。スプリントゴールは開発者が確約するも
のだが、スプリントゴールを達成するために必要となる作業に対しては柔軟性をもたらす。スプリントゴールはまた、一貫性と集中を生み出し、スクラムチームに一致団結した作業を促すものでもある。

スプリントゴールは、スプリントプランニングで作成され、スプリントバックログに追加される。開発者がスプリントで作業するときには、スプリントゴールを念頭に置く。作業が予想と 異なることが判明した場合は、スプリントゴールに影響を与えることがないように、プロダク トオーナーと交渉してスプリントバックログのスコープを調整する。

『スクラムガイド』 2020 〜 確約: スプリントゴール

プロダクトゴールは、戦略レベルまたは、戦術レベルに対応していますが、スプリントゴールは、運営上の確約(コミットメント)です。そして、最終的に、より大きな(スクラムの)絵の中の概念的なホームとなります。これによって、完成の定義が私たちには残ることになります。

スクラム確約 3: 完成の定義

3番目の確約が完成の定義です:

完成の定義とは、プロダクトの品質基準を満たすインクリメントの状態を示した正式な記述である。

プロダクトバックログアイテムが完成の定義を満たしたときにインクリメントが誕生する。

完成の定義により、作業が完了してインクリメントの一部となったことが全員の共通認識となり、透明性が生み出される。プロダクトバックログアイテムが完成の定義を満たしていない場合、リリースすることはできない。ましてやスプリントレビューで提示することもできない。そうした場合、あとで検討できるようにプロダクトバックログに戻しておく。

『スクラムガイド』 2020 〜 確約: 完成の定義

元の視点に戻ってみましょう。

各作成物には、透明性と集中を高める情報を提供する「確約(コミットメント)」が含まれている。これにより進捗を測定できる。

『スクラムガイド』 2020 〜 スクラムの作成物

確約に関する作成物の目的に、完成の定義を含めてしまうことは、またしても、幾分の不自然を感じます:

  • プロダクトバックログの目的: プロダクトゴールを達成するためにスクラムチームを支援すること
  • スプリントバックログの目的: スプリントゴールを達成するためにスクラムチームを支援すること
  • インクリメントの目的: プロダクトまたはサービスの顧客に価値を提供すること

インクリメントの目的は、完成の定義を達成するためにスクラムチームを支援することではないのです。

私の見方としては、新しいスクラムの確約の目的は2つの場合について達成されていますが、もう一つは半分くらいの達成です。プロダクトゴールとスプリントゴールには適しています。しかしながら完成の定義の場合、私たちは完成の定義を確約の概念に押し込む必要があるのです。

まとめ

『スクラムガイド』2020年版は、ソフトウェア開発を超えてアプリケーションへの訴求を広げるためのフレームワークとしての大幅な変更が盛り込まれています。私の考えでは、『スクラムガイド』2020年版は、正しい方向への大胆な一歩だと思っています。

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本記事の翻訳者:

長沢智治

長沢 智治 – アジャイルストラテジスト

サーバントワークス株式会社 代表取締役。Helpfeel Inc. アドバイザリーボード。DASA アンバサダー/認定トレーナー。

DASAプロダクトマネジメント認定トレーナー
DASA DevOpsファンダメンタル認定トレーナー

『More Effective Agile』、『Adaptive Code』、『今すぐ実践!カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント』、『アジャイルソフトウェアエンジアリング』など監訳書多数。『Keynoteで魅せる「伝わる」プレゼンテーションテクニック』著者。

Regional Scrum Gathering Tokyo 2017, DevOpsDays Tokyo 2017, Developers Summit 2013 summer 基調講演。スクー講師。

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