本記事の著者は、Scrum.org による上級認定資格 Professional Agile Leadership – Evidence-Based Management (PAL-EBM)を取得いたしました。
エビデンスベースドマネジメントガイド
エビデンスベースドマネジメント(EBM: Evidence-Based Management)は、Scrum.org が提唱している経験主義に基づいたマネジメントと提供価値の向上のためのフレームワークです。
Scrum.org では、『エビデンスベースドマネジメントガイド』(EBMガイド)を無償で提供しています。本ガイドの日本語翻訳には長沢智治も参加しております。
EBMガイドは、2024年5月7日に最新版が公開されました。日本語翻訳版も2024年版を公開しています。
エビデンスベースドマネジメントの中核
EBMガイドで解説しているように、EBMには中核となる概念が3つあります。
- 3つのゴール設定
- 実験のループ
- 4つの重要価値領域
これを抑えることで、経験主義でのビジネス戦略やプロダクト戦略を立て、運営していけるようになります、計測できないものは改善できないわけであり、また付け加えることも欠けるものもないフレームワークとして、EBMガイドが存在することはとても意義があります。
4つの重要価値領域について
4つの価値領域は、エビデンスとすべき、基準となるものです。「価値」というとあいまいでふわっとしたものだと感じる方もいると思いますが、これが組織の中でふんわりしていること自体に問題があることも気がついているのではないでしょうか。
それぞれの重要価値領域は、定量化した指標で追っていく必要がありますが、EBMでは、この指標として何が適切であるかは定義していません。これは、状況によって変わるものである捉えているためです。重要な価値の領域を定義することで、これらを意識し、測るべき指標は組織で考える、状況によって測るべきものは変わってくることもあると捉えるべきです。
EBMガイドでは、「価値領域」が2つの視点で定義されています。
- 市場価値
- 組織的な能力
ビジネス的に直接影響するのは、「市場価値」です。ただし、それを実効力のあるものにするためには組織に能力がなければなりません。それが「組織的な能力」です。
EBMでは、これらをエビデンスに基づいて計測し、意思決定をしていきます。明確に意図したものを計測することに意義があります。
市場価値
市場価値といってもいろいろな要素があり、その共通認識にとっても計測するものがかわってきて、思惑もぶれていってしまうものです。しかも、価値というからには何に対してどんな価値があるのかを明確に定義しないわけにはいきません。そこで EBM では、以下の2つを価値領域として定義しています。
- 現在の価値(CV)
- 未実現の価値(UV)
それぞれの概念と位置関係は、EBMガイドならびに後述の図解をご覧いただきたいと思います。「現在の価値」とは、純粋に現時点でそのビジネスやプロダクトが提供している価値であり、価値の源泉です。「未実現の価値」とは、将来に提供できる価値のことです。したがってまだ不確かなものが多いことになります。この2つの価値領域を用いて、ビジネスやプロダクトの可能性を判断していくことになります。
組織的な能力
組織的な能力とは、価値を提供するために組織が持ち合わせている能力のことです。どんなに価値の見込みがあったとしてもそれを実現できる能力がない組織では、目的を達成することができません。EBMでは、以下の2つの価値領域として定義しています。
- 市場に出すまでの時間(T2M)
- イノベーションの能力(A2I)
「市場に出すまでの時間」は、Time-to-Market として広く知られているものであり、説明は不要でしょう。ただし、市場に出すまでの時間ということは、「市場に出して、そこから学ぶ時間」であることも忘れてはいけません。フィードバックを得るまでの時間と捉えておくべきでしょう。したがって、開発する時間(サイクルタイム)ではなく、リードタイムで考えるべきです。または、リードタイムよりも、フィードバックタイムで考えるべきだと言えます。開発し、リリース準備ができてから顧客に提供されるまでの時間である「顧客サイクルタイム」を意識することも大切ですし、意思決定にかかる時間も意識すべきことです。T2Mは、組織の反応性を見る定量化した指標になります。
「イノベーションの能力」は、新たな価値を生み出す能力です。アイデア力や技術力もさることながら、プロダクトの開発や運用に注力できる仕事量のレートや、足どめとなってしまう事柄の除去などが考えられます。A2Iは、組織の効果性の定量化した指標になります。
図解
これらを図解すると以下のようになると考えています。
EBMは経験主義(経験的プロセス制御)に基づきますので、常に変化に適応していくことが重要です。したがって、純粋に「イノベーションの能力」と「市場に出すまでの時間」は、組織が持つべき能力として計測し続ける必要があります。それらを元にして、「現在の価値」をしっかりと把握(計測)すること、顧客の期待値や市場のニーズ、競合他社の動向、テクノロジーの進化を捉えた上で「未実現の価値」を把握(計測)することが大切です。
特に「未実現の価値」と「現在の価値」のギャップは、そのまま機会となるため、可能性と捉えることができます。可能性が高ければ投資意義がありますが、可能性が低ければ投資意義がないのかもしれません。どんなに「現在の価値」が高く、安定していたとしても、それと投資は別の話だということです。とはいえ、可能性が高くても、組織がそれを実現する能力を持ち合わせていなければ、それもまた投資意義が薄れていきます。ここからもこの4つの重要価値領域がとても関連深いことをご理解いただけるでしょう。
Professional Agile Leadership – Evidence-Based Management
Scrum.org では、エビデンスベースドマネジメントに基づいたマネジメントとメジャーメントの認定資格(略称: PAL-EBM)も整っています。認定資格の中では「上級」に位置付けられているものです。
支援いたします
弊社は、設立当初より EBM に基づいた運営を行っております。そこで培った経験を元に、先述の PAL-EBM も取得しました(現時点で世界で300数名しか認定者がおりません)。
EBMは、経営、プロダクト戦略、マーケティング戦略にも通じるフレームワークです。EBMの実践や、EBMの概念の理解へのご支援なども弊社サービスで承っておりますので、まずはお気軽にご連絡ください。
本記事の執筆者:
長沢 智治 – アジャイルストラテジスト
サーバントワークス株式会社 代表取締役。Helpfeel Inc. アドバイザリーボード。DASA アンバサダー/認定トレーナー。
『More Effective Agile』、『Adaptive Code』、『今すぐ実践!カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント』、『アジャイルソフトウェアエンジアリング』など監訳書多数。『Keynoteで魅せる「伝わる」プレゼンテーションテクニック』著者。
Regional Scrum Gathering Tokyo 2017, DevOpsDays Tokyo 2017, Developers Summit 2013 summer 基調講演。スクー講師。