意思決定のセンスメイキングなフレームワークとして、「クネビンフレームワーク(Cynefin Framework)」があります。
クネビンフレームワーク

明確・煩雑・複雑・混沌の問題領域があり、その問題領域によって意思決定の仕方が変わってくると言われています。また、問題領域がわからないのは「混迷無秩序」な状態と捉えることができます。
不確実性が高い状況下は、「複雑」な問題領域だと言えます。アジャイルが向いていると言われています。未知のもの、変化していくものに対して、見えている事実を収集し、意思決定を行い、行動する。それによってまた事実を収集し、意思決定を行い、行動するを繰り返していくことになるわけです。従って、経験主義(経験的プロセス制御)が活きてきます。見えてきた事実から、目標を定め、遠位にある目標への方向性を意識し、仮説を立てていきます。その仮説を実際に実験することで、実証または反証するのです。従って経験主義の柱である透明性・検査・適応が行われるのです。
「複雑」な問題領域について触れてきましたが、他の問題領域でも同様に意思決定や行動の指針があります。
ここで「明確」としているのは、近年、クネビンフレームワークの提唱者であるDave Snowdenが「Clear」とすべきだと主張しているからです。
ここで「混迷」としている部分は、今まで無秩序(disorder)とされていた箇所になります。先述と同様に近年では、「aporetic」と表現しているため、ここでは「混迷」としています。
ここで、重要となるのは、問題領域によって、意思決定をすべき人、意思決定の頻度やタイミング、何に対して意思決定すべきかが、異なるということです。
- 意思決定すべき人
- 意思決定の対象
- 意思決定の頻度やタイミング
ITプロジェクトの失敗要因が、「意思決定の遅延」によるというデータが示す通り、意思決定はあらゆるシーンにとって改善すべき事項となっています。しかしながら、問題領域に関わらず意思決定者が固定化され、また現場の当事者でない人が意思決定を行う、多くの責任を担うため現場を見ることができないといった事象が多発しているのではないでしょうか?これら意思決定の改善を見過ごして、現場に改善を強いることの弊害は、変化に対応できなく、機会損失が増加するだけではなく、現場のモチベーション低下、離職率の増大、顧客離れを引き起こしています。
因みに、ITプロジェクト成功のカギとして、広く知られているプロジェクト管理手法やプロジェクトマネージャーの力量は、プロジェクトの成功率にさほど影響を与えていなかったことがわかっています。むしろ、現場にマネジメント機能を委ねた方が成功しているのです。これは近年のITプロジェクトが「複雑」な問題領域に推移していったからというのも含んでいると思いますが、「正しい」とされていた誤認識が要因であったことも大きいのではないかと考察しています。
OODAループ
OODAループは、戦時下での意思決定フレームワークであり、敵よりもより高速な意思決定を行うことで、優位に立ち、相手を混乱させることに長けています。
外の世界からの情報を収集・観察し、それらをもとに客観的な情報として方向づけて、意思決定を行います。その決定に伴った行動を行うことで状況がどう変化したかを観察し、次へと繋げていく。これを高速に行っていきます。このためには、司令官の意図(リーダーの意図)と自律的な意思決定、自己組織化が重要となります。司令官のコマンド&コントロールに頼り、指示を待っていては敵を混乱させることはできません。
OODAループは、高速回転させていくことで、スキップルートを利用できるようになります。上図の点線の矢印がそれらです。方向づけから行動へ、行動と観察のループへとスキップすることで、より高速に相手を出し抜き優位にたてるようになるわけです。
しかしながら、これらはより成熟した組織であったり、司令官であったり、自己組織化されているからこそできることでもあります。それは変化が激しい「複雑」な問題領域では尚更です。
反面、状況が複雑ではなく、煩雑であったり、明確出会ったりした場合は、どうでしょうか。明確な状況であれば、司令官の指揮に従い、誰がやってもこなせるようにしておけば良いはずです。すると、毎回毎回、意思決定が必要になることはなくなってきます。煩雑な状況でも同様です。一見混み入った状況でも専門家がいれば対処可能であれば、必ず意思決定が必要とは限りません。
クネビンフレームワークの問題領域とOODAループ
これらを「The Flow System: The Evolution of Agile and Lean Thinking in an Age of Complexity」では、OODAループとの関係で解説しています。
上図は、書籍での解説と図解と多少変更しています。詳細はぜひ書籍で確認してください。
個別解説はここでは避けますが、明確と煩雑そして、混沌では意思決定が必ず必要ということはありません。特に明確において毎回意思決定しなければならないならば、それは待ち時間に直結しますし、もはや明確な問題領域ではありません(おそらく混沌)。
煩雑においても、毎回意思決定が求められるならば、それはその問題を掌におさめている状況ではないはずです(おそらく複雑)。意思決定が必要となるのは、問題を分類する際と、変更管理のときくらいのはずです。
混沌においては、意思決定できるほどの材料が揃っていないはずです。従って不必要な意思決定を誘発しているならそれ自体が初動の遅れにつながることでしょう。
因みに、適切な意思決定が不明瞭、意思決定の仕方がわからないといった場合は、「混迷」に陥っている危険性があります。意思決定不在が招いた結果と思われるので、直ちに「現在の意思決定者が適切なのか」を検査したいところです。もし、意思決定者がそれを拒んだ場合は、それこそ、「混迷」の証左です。
複雑さの歩き方
複雑な問題領域における歩き方と称して、以前に書いた記事も併せてご覧ください。
複雑さの歩き方
複雑な問題領域では、「同意の度合い」と「エビデンスの確かさ」を意識した歩き方が不可欠です。経験主義ではこれらのバランスをうまく取れる作用があります。また、科学的思考も同様にバランスをうまく取れる作用があります。
フローシステムガイド (TFS Guide: The Flow System Guide)
先に紹介した書籍の公開されたガイドとして、「フローシステムガイド」があります。フローシステムガイド(またはフローガイド)は、トヨタ生産方式(TPS)とトヨタウェイを参照し、不確実な状況下、非線形な業務に対してのガイドを示してくれています。TPSに対してTFSと呼称しているのが興味深いところです。
このフローシスタムガイドを日本語翻訳したものが公開されているので、ぜひ参考にしてください。
本記事の執筆者:


















『More Effective Agile』、『Adaptive Code』、『今すぐ実践!カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント』、『アジャイルソフトウェアエンジアリング』など監訳書多数。『Keynoteで魅せる「伝わる」プレゼンテーションテクニック』著者。
Regional Scrum Gathering Tokyo 2017, DevOpsDays Tokyo 2017, Developers Summit 2013 summer 基調講演。スクー講師。