この記事は、Magdalena Firlit さんの「Fight for Transparency」を翻訳したものです。翻訳にあたって、Magdalena さんの許諾を得ています。誤字脱字、誤訳がありましたらご指摘ください。
アジリティ(機敏性)を追求する企業が著しく増えてきています。これは、アジャイル変革(Agile Transformation)を進めようとしているということです。
私が100近い組織で行った調査によると、スクラム(あるいは単にアジャイルのマインドセット)の恩恵を受けられていない原因は、透明性の欠如にあります。このような状況では、どのような変化も進めることは不可能に思われます。
透明性が欠如している状況
スクラムフレームワークは、3つの柱である透明性、検査、適応に基づいています。私たちは、これを経験的プロセスと呼んでいます。透明性を可能にするには、信頼と勇気が必要です。検査と適応を実践するには、透明性が重要なのです。
不信感のある環境においては、スクラムフレームワークを適用することは、健全な組織よりも複雑になるかもしれません。
このような状況は、人々を苛立たせます。ほとんどの人は、透明性を高めるような変化を望んでいます。私は、よくこの課題を克服する方法を訊かれます。
多くの人が、自分の会社は透明性のレベルが低いと報告しているのです。それはどういう意味でしょうか?
組織で簡単に確認できる主な症状:
- 自分の作業の現状を共有することを恐れている(スクラムチームでは、インクリメントに関係しているものが多いかもしない)。
- 自分の作業の現状を見せたり、情報を開示すると罰せられる。
- 情報は内部に隠しておかないとならない。
- ステークホルダー(利害関係者、特に顧客)には、プロダクトについてのポジティブな情報しか与えられない。プロダクトの本当の状態は隠す。
- トップやミドルのマネジメントの意思決定が秘密事項となる。情報は、誰に、いつ、何を、を暴くために管理する。
- 部門間は、連携ではなく、競争をする。関連する情報でも広がらない。
- 政治が存在する。
このような状況で起こる結末:
- 自分の意見を共有しなくなる。信頼が欠如することで、社員のエンゲージメントが低下する可能性がある。
- (何も)変化できる環境がなくなる。
- 検査と適応が欠如する。
- ステークホルダー(顧客)との信頼が失われ、取引が硬直化するかもしれない。
- インクリメントやプロダクト全体の状態がわかりにくい場合があり、誤った仮説を立てることになるかもしれない。
- 会社の誠実さレベルが低くなる。
- 価値と人(顧客を含む)への集中が欠如する。デリバリーへの集中を観察してみるべき。
- 組織内の政治は、社員の苛立ちを引き起こす。恐怖や振る舞いの操作、組織の伝統的なモデルや階層をを生み出す。
- 技術的負債は、透明性の欠如、社員間の恐怖心、技術的な改善の受け入れ欠如を増加させる可能性がある。
- 実験の設計、失敗、学習のゆとりがなくなる。
- 部門間の意見の相違や対立が起こる。
- ステークホルダー(顧客)との直接的なコミュニケーションが低下する。
興味深いことに、このような環境では、透明性を求めて努力する人もいるのです。彼らは、アジリティ向上への道をスムーズに進むために十分なエンゲージメントとエネルギーを持っているのです。
私は、それらの努力がどれだけストレスになるのかをみています。中には、解雇されるのではないか、別のチームに異動になるのではないかとと恐れを訴える人もいました。
この状況を変えたい場合はどうすべきか?
この状態で仕事をしていると認識しながらも、それでも変えたいと思った場合は、どうすればいいでしょうか?
組織の中での役割に関わらず、透明性に向けて常に何かをすることはできます。
スクラムフレームワークと経験に基づくアドバイス:
透明性から始めて、信頼関係を築く
透明性のある信頼できる環境が有益である理由を、全員(特にトップとミドルのマネジメント)に説明しましょう。他社のよい事例を共有しましょう。可能であれば、数値で示しましょう。
ステークホルダー/顧客を招き入れる
利害関係者、顧客、他の部門の人たちを招き、新しい働き方を紹介しましょう。その恩恵を提示したり、教えたり、コーチングをします。プロダクトビジネス戦略を通じて、協働し、彼らの意見に耳を傾け、信頼関係を構築しましょう。
経験主義を取り入れる
スクラムフレームワークの全体は、透明性、検査と適応がすべてです。
価値を計測する
透明性を組織に導入する方法としては、これがベストなアプローチのひとつです。データやエビデンス(証拠)があれば、現状と事実に基づいて会話を始めることできます。エビデンスベースマネジメントのフレームワークを用いましょう。以下の関連記事を読んでみてください:
- Introduction to Evidence-Based Management
- Evidence-Based Management – what is this? Part 1
- エビデンスベースドマネジメントに取り組む方法
- エビデンスベースドマネジメントガイド(EBM: Evidence-Based Management Guide)
同じ信念や考え方を持つ人を見つける
同じ信念や考え方(マインドセット)を持った人と協力しましょう。組織に変化をもたらし、透明性を高めることができるでしょう。
プロジェクト思考からプロダクト思考に転換する
「なぜそれが重要なのか?」、「それは透明性との共通点は何か?」このプロダクトが企業でどのようなものであるのかについて話を始めることが有益だと感じています。
プロダクトの観点から考えるということは、全体像をみるということです。プロジェクト思考がこの全体像を未推しなって、認識をスコープと納期(期日)に狭めてしまうかもしれません。プロダクト思考には、顧客(ユーザー)、その成果(アウトカム、すなわち、提供した価値)、コスト、企業へのインパクト、実験の設計など多くのものが含まれているのです。このアプローチでは、有用で価値がある透明性が求められます:
- さまざまな期待値をもつステークホルダーに対する透明性
- 組織が価値指標を収集、共有するための透明性
- 顧客と円滑な連携と信頼関係を構築するための透明性
- チームがプロダクト戦略やビジョンを共有し、共通認識とエンゲージメントを共有するための透明性
透明性を適用するプロセス全体が、組織における大規模な変動と考え方の転換になるかもしれません。忍耐強く、検査と適応をしてみてください。
本記事の翻訳者:
長沢 智治 – アジャイルストラテジスト
サーバントワークス株式会社 代表取締役。Helpfeel Inc. アドバイザリーボード。DASA アンバサダー/認定トレーナー。
『More Effective Agile』、『Adaptive Code』、『今すぐ実践!カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント』、『アジャイルソフトウェアエンジアリング』など監訳書多数。『Keynoteで魅せる「伝わる」プレゼンテーションテクニック』著者。
Regional Scrum Gathering Tokyo 2017, DevOpsDays Tokyo 2017, Developers Summit 2013 summer 基調講演。スクー講師。