本記事は、Magdalena Firlit さんの「How the Organization Can Help Empower the Product Owner Role」の翻訳です。翻訳・公開にあたって、Magdalena さんから快諾いただいています。誤字脱字、誤訳がありましたら、ぜひご指摘ください。
はじめに
多くのスクラムチームと仕事をしていたり、Professional Scrum Product Owner クラスを受け持っていたりするときに、プロダクトオーナーに関するアンチパターンを観察しました。これは権限の与えられていないスクラムマスターのアンチパターンに似ています。
長年にわたって、企業との協働の中で、自分の役割を完全に果たすことができるプロダクトオーナーに出会うことはほとんどありませんでした。
問題は、役割そのものや、実証的なフレームワークとしてのスクラム、そして複雑さ(さらにおそらくそれ以上のもの)について共通して誤解しているということです。アジャイルトランスフォーメーションの最中、ビジネスアナリスト、プロジェクトマネージャー、プロダクトマネージャーなどの肩書きを持つ人たちが「プロダクトオーナー」に改名されてきました。普通、旧態依然とした責務は変わりません。彼らは、新たな説明責任として、プロダクトバックログの管理を受け持ちます。実際には、開発チームのためにプロダクトバックログに、今後のアイテムとその説明を記述していくことを意味しています。
これらの人たちの多くは、不満を持っています。それは、彼らは、「どんな意思決定を下すこともできない」、「予算や予算編成の戦略を持っていない」、「価値の提供に影響を与えない」、「インクリメントをマーケットにリリースしたり、検証する意思決定をしない」など、一般的に本当の意思決定者の代理として働いているに過ぎないからです。彼らは開発チームのためのユーザーストーリーライターになることを余儀なくされています。また、プロダクトオーナーは、プロジェクトや、フィーチャー、機能セットのオーナーになってしまうことがとてもよくあります。
このアプリーチでは、この人たちの不満や、一貫した価値の提供の欠如、継続的な学習の欠如で終わってしまいます。期待値が前もって設定されてしまっていたり、意思決定件がないため過去スプリントからのフィードバックを取り入れる機会がなかったり、すべての意思決定が他の誰かによって行われることになっていたりします。
もう一つのアンチパターンは、マーケティング、営業、法務、最終的にはユーザーまたは、顧客といった重要な利害関係者とのコミュニケーションが取れないことです。誰のためにソリューションを開発しているのかを知るためには適切な人に到達するには階層が多くありすぎます。または、どのような顧客ニーズを満たすために開発しているのかを知ることができません。
プロダクトオーナーがもたらす価値は何か?(顧客、ユーザー、プロダクト、組織に対して)
プロダクトオーナーは、「書記」や「代理人」として始まることがあります。プロダクトオーナーの旅路のちょうど最初の段階では、とても良好で「起業家精神」モードに向かって活動しています。長い間「書記」モードのままでいることも多いですが。
顧客にとって、このように振る舞っている役割はぼやけて見えます。通常、顧客は営業やトップマネジメント、ときにはプロダクトマネージャーやプロジェクトマネージャーを対話をします。彼らはプロダクトオーナーが何のために存在しているのかも、十分に理解していないかもしれません。
書記や代理人であるプロダクトオーナーは、プロダクトや価値の最適化への影響が少ないわけです。プロダクトオーナーという役割は、利害関係者の要望や注文を満たし、プロダクトバックログに何を置くべきかを決定し、利害関係者と協力して価値を見積もり、プロダクトバックログの優先順位付け、開発チームに完全な説明が記述されたアイテムを作るのに日々費やしています。
組織にとって、プロダクトに関する意思決定プロセスは、通常、組織の多くの役割に散在しています。また、プロジェクトの数はとても膨大にあります。意思決定の制限は、責務の分散化、オーナーシップの欠如、一貫した価値の提供の欠如、競合する要件、不必要な依存関係、品質の低下などをもたらす可能性があります。
何を目指すべきか?
プロダクトオーナーは、価値の最適化とプロダクトバックログの管理を担当します。我々は、ビジョン、ビジネス戦略、利害関係者の管理、顧客との協働、マーケット性のあるプロダクトの検証、フィードバックや現行のビジネス状況に基づいたプロダクトバックログへの適応などを行うプロダクトオーナーを目指すべきべきです。
コミッティー(委員会)ではなく、一人の人がこの説明責任を持つことになります。
プロダクトオーナーをうまく機能させるには、組織全体でプロダクトオーナーの決定を尊重しなければいけない。
『スクラムガイド』
組織的にプロダクトオーナーの役割を強化する方法
いくつかのアイデアを示します:
組織全体
複雑さと実証主義を理解することが、とても重要です。複雑な環境では、実証的なアプローチでしか取り組むことができません。経験とデータに基づいて、私たちは意思決定をすることができます。私たちは迅速に学習することができます。実証主義は、透明性、検査と適応によって反映されます。
Cレベル
トップマネジメントにとっては、プロダクトの大部分である検証と価値から(自らの)手が離れることが重要になります。そうでしょうか?透明性や、データ(測定)に基づく明確で合理的な意思決定、戦略、ビジョンは、スマートで権限を与えられたプロダクトオーナーがこれら全てをもたらすことができます。
プロダクトオーナー
- 自らの強化のために努力する。
- 顧客やユーザー、利害関係者と共に働く。
- プロダクトオーナーがプロダクトや組織にどのような価値をもたらすかを示す。プロダクトバックログの優先順位における最後のワードを持っている。
- ビジョンとビジネス戦略を提示する。
- 実証的なアプローチを用いて、適応する。
- 根拠に基づいた管理(Evidence-Based Management)手法を用いて、意思決定が事実に基づいていることを証明する。
- 知識と経験を他のプロダクトオーナーと共有する。
- 価値の提供や、開発チームのフロー、アジリティなどを阻害する可能性がある妨害要因を取り除くようスクラムマスターに相談する。
- プロダクトに関連する他部門との関係について関心を持つ。
スクラムマスター
プロダクトオーナーのために、ツールを用意したり、妨害要因と取り除いたりします。ツールには、「ビジョンテンプレート」、「ビジネス戦略キャンバス」、「価値最適化」などがあります。また、組織全体と連携したり、プロダクトオーナーシップとビジネスアジリティの重要性を教えていきます。作業環境に Professional Scrum を普及させましょう。
開発チーム
プロダクトオーナーには、より広いレベルでプロダクト開発に携わるように促しましょう。(社内外の)顧客からのフィードバックに努めましょう。顧客へのインタビューなどに参加し、データ収集しましょう。
マネージャー
トップマネジメントとメリットや良い事例を共有することで、プロダクトオーナーを支援します。プロダクトオーナーの妨げとなっている妨害要因をスクラムマスターが取り除くのを支援します。
これらは、いくつかのアイデアに過ぎませんが、あなたをにインスパイアしていただくには十分でしょう。権限があり、意思決定できるプロダクトオーナーを持つことで、組織がどのような恩恵を得ることができるのかを考えてみてください。
Magdalena さんによる「プロダクトオーナーが注力すべきこと」もぜひご一読ください。
本記事の翻訳者:
長沢 智治 – アジャイルストラテジスト
サーバントワークス株式会社 代表取締役。Helpfeel Inc. アドバイザリーボード。DASA アンバサダー/認定トレーナー。
『More Effective Agile』、『Adaptive Code』、『今すぐ実践!カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント』、『アジャイルソフトウェアエンジアリング』など監訳書多数。『Keynoteで魅せる「伝わる」プレゼンテーションテクニック』著者。
Regional Scrum Gathering Tokyo 2017, DevOpsDays Tokyo 2017, Developers Summit 2013 summer 基調講演。スクー講師。