翻訳記事

この記事は、Magdalena Firlit さんの「Different Ways to Know your Customers」を翻訳したものです。翻訳は Magdalena さんの許諾をいただいています。誤訳、誤字脱字がありましたら、ご指摘ください。

はじめに

今日の競争市場で成功するためにプロダクトオーナーは、顧客を知る必要があります。プロダクトマネジメントに関わる専門家の間では、この点については共通認識があります。このトピックについては多くのことが述べられてきました。この記事では、顧客を知るための別の方法を説明します。より実践的なものにするために、現場で適用しやすいツールをいくつか紹介もします。

ユーザーロールのモデル化

顧客やユーザーがプロダクトやサービスを用いる際に、持ち合わせる可能性がある異なるロールを理解することをユーザーロールのモデル化といいます。

例)新たな言語を学ぶためのアプリを提供しようとしています。

通常、このアプリにおけるユーザーの潜在的なロールをブレインストーミングするところから始めます。このブレストの結果として、「求職者」、「社会人学習者」、「学生」、「ビジネスパーソン」、「退職者」などが挙がってくるでしょう。

次に、最初のアイデアを洗練させることになるでしょう。顧客やユーザーをより良く理解し、透明性を高めるために、ステークホルダーとスクラムチームが一緒になってこれらのロールを発見することを推奨します。

また、顧客やユーザーのアーキタイプについて考えてみるのもいいでしょう。アーキタイプは、顧客やユーザーの動機づけや振る舞いに関連しているからです。上記のアプリの例で言えば、仕事で使う言語を上達させたい多忙なビジネスパーソン、資格取得のために語学試験を受けようとしている学生などです。

顧客の振る舞いについて考えてみましょう。それは予測可能でしょうか?それとも予測不可能でしょうか?

このようなロールやアーキタイプを持ち合わせることは、顧客やユーザーのペルソナ(またはプロトペルソナ)を作り出すのに役立ちます。ペルソナに名前をつけることで、年齢、職業、苦痛と得たいもの、問題、ニーズを示すのに役に立つことに気がつきました。ロールとアーキタイプから得たすべての情報を使って名前をつけてみてください。

例)資格取得のために語学試験を受ける心理学を専攻している学生のトム(19歳)は、国際的な語学試験に苦戦しています。次の試験までにスコアを伸ばしたいと考えています。彼は、アーリーアダプターで、最高のアプリを購入する前にすべてのアプリを試したいと思っています。彼は、これらの資格が大学卒業後の就職に役に立つと考えているのです。

教科書によっては、ユーザーロール、アーキタイプ、ペルソナを区別しているものもありますし、同じ意味で使っている場合もあります。もっとも重要なことは、どのように名づけていようが、顧客を知るということなのです。お分かりいただけているように、この記事ではこれら3つを少し別の意味で用いています。

プロダクトバックログアイテムの説明としては、ペルソナを用いることを強く勧めます。

例)心理学の生徒であるトムのために、実際の試験を受ける前に自身の語学レベルを確認できる模擬試験のオプションを用意したい。

ユーザーストーリーのテンプレートや、ジョブストーリーのテンプレート、その他のテンプレートを使うことだってできます。

コツその1: マーケティング部門や営業部門で実施されているような顧客のセグメンテーションを参考にするとよいです。そこからインスピレーションや答えが得られるかもしれません。

コツその2: ペルソナにはプロトペルソナとペルソナがあります。延々とリファインメントに何時間も費やしてはいけません。プロトペルソナは素早く、非公式で、簡単に作ることができるものです。次の質問と回答を参照してみてください。

プロトペルソナが潜在的な顧客やユーザーかを確認する方法

しかし待ってください。これらのプロトペルソナが潜在的な顧客やユーザーであることをどのようにして確認すればいいのでしょうか。

架空のペルソナ(イマジナリーペルソナ)だけを持つことを強くお勧めします。イマジナリーペルソナは、(ステークホルダーやチームを含めた)皆さんの仮説(YOUR ASSUMPTIONS)なのです。さらに仮説なので、検証させる必要があります。そうでなければ、皆さんのすべての労力とすべてのフィーチャーは、皆さんの願望、推測、信念だけになってしまうからです。しかし、これらのプロトペルソナをどのように検証するとよいでしょうか。

顧客を知る

皆さんのプロダクトが既存のものであったならば、何らかのデータがあるはずです。もし、データがないのであれば。収集から始めましょう。組織の中にはデータを共有してくれる人が必ずいるはずです。顧客を知るためのその他の方法は以下を見てください。

もし皆さんのプロダクトがまだ存在していないのであれば、潜在的な顧客やユーザーとの会話を始めてみてください。

顧客を知ることで、彼らの問題をみなさんが解決する手助けになるかもしれません。または、顧客を知ることで、市場にまだ存在していないニーズを生み出すかもしれません。

顧客やユーザーに解決策を提供するのではなく、まず理解すること

顧客を観察し、顧客と会話することを避けることはできません。プロダクトオーナーの中ではこのように回避しようとする傾向があることに気づいています。このような場合、組織は望まれていないフィーチャーや不要なフィーチャーを提供しているでしょう。私はこれを「featurosis」と呼んでいます。これらは基本的にお金のムダになります。この短い動画でFeaturosisについて学ぶことができます。

そんなに大企業であっても、ユーザーへのインタビューを始める方法は必ずあります。例えば、いくつかの大銀行組織にはスタジオがあり、常に顧客を招いて実験的なインタビューや観察を行っているのです。同様のアプローチは、他の企業においてもうまくいっています。

顧客を知るための活動

顧客を知るための活動には以下が含まれていることでしょう。

インタビュー

顧客やユーザーにインタビューすることで、彼らの問題や苦しみ、機会についての有益な情報を多く得ることができます。インタビューするための全般的なプロセスというのは存在するので、それをよく理解した上で、UX担当者にインタビューを手伝ってもらうようにしましょう。矛盾のない一貫性のあるリサーチを行うために、すべての顧客に対して同じ質問をするようにしましょう。

観察

経験上、顧客のことをよりよく知るためには、観察が最良の方法の一つです。偏りのない結果を得るためには、自然な環境で観察するのが理想的です。観察にはいくつかの方法があります。

  • 対面での観察
  • バーチャル(ビデオ通話による接続)
  • フォーカスグループ
  • オンライントラッキング(いくつかのツールがある)
  • ヒートマップや視線追跡
  • エスノグラフィックリサーチ
  • その他

顧客と話す

予定されたインタビューとは別のテクニックとして「顧客と話す」があります。可能性がある限り、いくつかの状況で顧客とプロダクトやサービス、体験について雑談するだけでいいのです。例えば、ヨーロッパのある食料品チェーンの幹部は、以前は複数の場所で買い物をしていました。なぜかというと、彼は一般の顧客として買い物を体験したかったからです。加えて、他の顧客が買い物をしているときの体験についてよく話をしていました。顧客の意見に耳を傾け、潜在的な改善点と機会を見つけることができたのです。

アンケート調査

アンケート調査は最も一般的なテクニックですが、私にとっては十分ではない方法です。アンケート調査には注意が必要です。特に傾向観察には使うことができますが、形式的なものかもしれないからです。この件についてはいくつかの記事があります。私だけの見解ではないのです。

コツ: アンケート調査だけが顧客を知る唯一の方法ではありません

実験

間違いなく、観察と組み合わせた実験は、顧客をより良く知るための最も洞察力のある方法の一つです。これは、顧客の体験、ユーザビリティ、プロダクトの有用性についての仮説を検証する非常に良い方法です。実験についての詳細は、「実験をするのはなぜか?」の記事をご覧ください。

データ収集

顧客に関する情報は、組織の中にいくらでもあります。ぜひ尋ねてみてください。ビジネスによっては顧客を追跡するシステムがたくさんあるのでそれらを活用することができます。また、観察、インタビュー、アンケート調査などからデータを集めることができます。データがあれば、エビデンスに基づいた意思決定がしやすくなります。

プロダクトで顧客体験を作り込む

顧客を幅広く知るのに役立つメソッドの一つは、顧客にとってのプロダクト体験全体を作り込むことです。最もよくある方法の一つは、顧客や見込み顧客とワークショップを開催し、プロダクトやフィーチャーを一緒にデザインすることです。常に有用性、一貫性、使いやすさを追求するのです。ハーバードビジネスレビューの記事に書かれているようなマーケティング手法を用いることも検討しましょう。マーケティングに限らず、インスプレーションを得られるので読むとよいでしょう。

ヒント1: さまざまなアプローチを組み合わせることで、結果を比較することができます

ヒント2: 顧客を知ることは、継続的なプロセスであることを忘れないでください。1年前やそれ以前に実施した調査に頼らないようにしたいです。顧客やユーザーの思考、習慣、ニーズなどは変化しているからです。彼らの現在の体験を理解しなければなりません。

ツール / キャンバス

顧客を知るために役に立つツールがいくつかあります。ぜひ閲覧してみてください。独自のテンプレートを作成することもできます。

ペルソナキャンバス

引用: canva.com

引用: canva.com

カスタマージャーニー

引用: canva.com

Lean UX キャンバス

引用: https://jeffgothelf.com/blog/leanuxcanvas-v2/

共感マップ

引用: canva.com

終わりに

顧客を知る方法はいくらでもあります。大企業であっても、顧客やユーザーに直接コンタクトを取る方法もいくつもあるのです。言い訳はできません。企業内で顧客をより良く理解する手助けをしてくれそうな適切な人を探してみてください。

この記事はAIではなく、人間であるMagdalenaが書きました。

Scrum.orgでは、新たなスキル系のコースを開設しました。Professional Scrum Product Backlog Management Skills です。このコースやその他のコースにも興味がある方は、こちらで公開コースを見ることができます。

本記事の翻訳者:

長沢智治

長沢 智治 – アジャイルストラテジスト

  • サーバントワークス株式会社 代表取締役
  • Agile Kata Pro 認定トレーナー
  • DASA 認定トレーナー

認定トレーナー

DASAプロダクトマネジメント認定トレーナー
DASA DevOpsファンダメンタル認定トレーナー

認定試験合格

Professional Scrum with User Experience
PAL-EBM
Professional Scrum with Kanban
Professional Scrum Product Backlog Management Skills
Professional Scrum Facilitation Skills
Professional Product Discovery and Validation
Agile Kata Foundation
DASA Product Management
DASA DevOps Fundamentals

『More Effective Agile』、『Adaptive Code』、『今すぐ実践!カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント』、『アジャイルソフトウェアエンジアリング』など監訳書多数。『Keynoteで魅せる「伝わる」プレゼンテーションテクニック』著者。

Regional Scrum Gathering Tokyo 2017, DevOpsDays Tokyo 2017, Developers Summit 2013 summer 基調講演。スクー講師。

プロフィール