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本記事は、PSTのBarry Overeemさんによる「How Scrum Teams Can Benefit From The Principles Of Liberating Structures」の翻訳です。翻訳にあたり、Barryさんの快諾をいただきました。ご翻訳、誤字脱字を見つけたらフィードバックをお願いします。
リベレイティングストラクチャー
ここ数年で、リベレイティングストラクチャー(LS: Liberating Structures)はスクラムコミュニティで急速に人気を集めています。みなさんも聞いたことがあるかもしれません。ご存知かもしれませんが、オフィシャルには33種類のリベレイティングストラクチャーがあります。共同開発者は、Henri LipmanowiczさんとKeith McCandlessさんです。もしかしたら、みなさんは既存の仕組みを洗練させたり、新しい仕組みを開発したりするためのグローバルコミュニティの一員かもしれません。もしかしたら、次の段階と未来を形作るために「すべての人を巻き込み、解き放つ」というその目的も説明できるかもしれません。
しかしながら、リベレイティングストラクチャーには、10の基本原則があることを知っているでしょうか?
あらゆる方法論やフレームワーク、コンセプトと同様に、実践が機能するのには原則があります。チームがその原則と価値基準を理解し積極的に用いることなくスクラムを取り入れた場合、それらの文脈において機能するための強固な基盤が欠けてしまうことになります。これはリベレイティングストラクチャーでも同じことが言えます。レイ・ダリオさんの『PRINCIPLES (プリンシプルズ) 人生と仕事の原則』においてこのように記しています。
原則は、人生で望むことを手に入れるための基本的な行動に役立つ基本的な事実だ。同様の状況下であれば、何度も繰り返し目標達成のために使うことができる。
『PRINCIPLES (プリンシプルズ) 人生と仕事の原則』
リベレイティングストラクチャーの原則を理解すれば、目的を達成するために必要な仕組みを容易に判断することができるようになります。例えば、根深い障害物を解決するためだったり、ステークホルダーとの共同作業の改善であったり、あるいは、チーム内の緊張関係に対処するためだったりです。
この記事では、リベレイティングストラクチャーの10の原則を紹介していきます。私自身の理解を述べた上で、スクラムチームでそれらを用いる方法について具体的に提案していきます。これらはあくまで提案であり、定まっているものではありません。このほかにもさまざまな組み合わせが考えられるのです。仕組みと原則がどのように結びついているかを理解し、自分自身で新しい結びつきを探究できるようにすることが私の意図になります。理想を言えば、リベレイティングストラクチャーについてより深い知識を得ることができ、チームや組織でより効果的に活用できるきっかけとなるとよいです。
本記事の内容の要約を掴むことができます。@akapon2010さんありがとうございます!
#リベレイティングストラクチャー のメモ
— Akapon (@Akapon2010) November 21, 2022
(スクラムチームが「リベレイティングストラクチャー」の原則から恩恵を受ける方法より)#全員を巻き込む対話手法 pic.twitter.com/Yvw8TmKqJH
リベレイティングストラクチャーの10の原則
リベレイティングストラクチャーのウェブサイトには、10の原則の詳細が掲載されています。それぞれの原則について「すべきこと(must-dos)」と「してはならないこと(must-not-dos)」が共有されています。「すべきこと」は望ましい実行や振る舞いを強調しています。また、「してはならないこと」は間違った使い方をした場合に、一体感(インクルージョン)や信頼、イノベーションがどのように阻害されることになるのかを説明しています。全体として、これらの原則は日常的な相互作用を仕組み化するためにリベレイティングストラクチャーを用いた場合に何が可能になるのかをハイライトしています。
10の原則一覧
- すべての人を巻き込む、解き放つ
- ひとりひとりや地域の経験や意見を深く尊重
- 実践するほど信頼が築かれる
- 失敗しても学びがあれば良いと促す
- 自分たちの自己発見を実践する
- 自由度と当事者意識を高める
- 可能性を強調する: まだ見ぬ良いアイデアがあると確信する
- 創造的破壊を誘発してイノベーションを可能にする
- 真剣な中でも遊び心も楽しむ
- 明確な目的を持って始める
紹介しているLSの一覧
- 速攻!ネットワーキング
- ひとり、ふたり、4人、みんなで
- 25/10クラウドソーシング
- トロイカ コンサルティング
- 頼れる仲間たち
- 助けることのヒューリスティクス
- あの人の成功物語
- カンバセーション・カフェ
- 聴いて・理解して・尊重して
- 15%ソリューション
- シフト&シェア
- 経験共有金魚鉢
- ヤバい質問
- 発見とアクションのための対話
- みんなの未来予想図
- これだけ!
- 持ちつ持たれつ(WINFY)
- 統合と自律のはざまで
- 何が、だから何で、それで何を
- 付き合いの良いネットワーク網
- トゥリーズ(TRIZ)
- エコサイクル計画
- パナーキー
- 即興劇
- みんなで描く
- セレブインタビュー
- 9回のなぜ対話
- ストーリーボード
- 目的から実務へ
訳注: 以下に紹介しているリベレイティングストラクチャーについては、英語表記はオリジナルのリンク先に設定しています。日本語訳表記については、Facebookのリベレイティングストラクチャーのページにある各リンク先に設定しています。
1. すべての人を巻き込み、解き放つ
Include and Unleash Everyone
第一の原則は、「すべての人を巻き込み、解き放つ」ことです。これは、すべての仕組みをカバーする第一原則だと考えています。次の段階の形成に全員を参加させ、すべての声を聴き、意見を尊重し、貢献を認めるという、リベレイティングストラクチャーの本質に触れるものです。その仕組み上、スクラムチーム内で大きな声や強い意見を持ち合わせていない人であっても、自分のアイデアを共有することが心強くなります。その結果として、困難の問題に対して、隠れたままであったような意外な解決策を見出すことができるのです。
スクラムチームでこの原則を強化したいのであれば、以下を試してみてください:
- 速攻!ネットワーキング(Impromptu Networking)
デイリースクラムにて行われるもので、標準的な次のような質問をします。「スプリントゴールの達成のために昨日何をしたか」「スプリントゴールの達成のために今日何をするか」「スプリントゴールを達成できないような障害物はあるか」 - ひとり、ふたり、4人、みんなで(1-2-4-ALL)
スプリントレトロスペクティブにて、問題点や改善点を洗い出すために何度も使うことができます。誰もがレトロスペクティブをファシリテートすることができます。この方法はシンプルであることが強みです。 - 25/10クラウドソーシング(25/10 Crowd Sourcing)
この仕組みも全員を巻き込み、解き放つための選択肢のひとつになります。この仕組みでは、すべての人を巻き込んで、すばやくアイデアを生み出していきます。例えば、スプリントレビューのときに、チームとステークホルダーを招待して、スクラムチームが次のスプリントで重点的に取り組むべきユーザー機能についてアイデアを共有してもらうときなどです。
2. ひとりひとりや地域の経験や意見を深く尊重
Practice Deep Respect for People and Local Solutions
スクラムチームは自己管理します。彼らは、プロダクトバックログとスプリントバックログの作業を管理し、効果的にコラボレーションし、スプリントゴールを達成できるように自分たちを組織化するのです。それにより、問題や課題に直面ししたときに、その解決策を見出していくことができるのです。私たちの経験では、最良の解決策は、チーム自身によって生み出されています。チームの独自の事情に合わせ、テイラーメイドやローカル解決策になるのです。日々問題に直面し、複雑な課題を解決するために、経験や知識を結集しているような仕事をしている人たちによって生み出されます。
この原則を支えるリベレイティングストラクチャーは以下です:
- トロイカ コンサルティング(Troika Consulting)
この仕組みによりメンバー同士で実践や支援をギブ&テイクできるようになります。迅速なラウンドで行う「コンサルテーション(相談)」ではひとりが助けを求めて、他のふたりがすぐにアドバイスをします(訳注: 1人が相談者で、それ以外がコンサルタントになるやり方です)。この仕組みはスプリントレトロスペクティブで試すとよいでしょう。 - 頼れる仲間たち(Wise Crowds)
グループ全体の知恵を活用して、共通の課題を克服します。複数のチームやステークホルダー、マネジメントを招待して、ワークショップを開催します。しつこい問題を一度にひとつずつ、一緒になって解決していきます。 - 助けることのヒューリスティクス(Helping Heuristics)
この仕組みを利用して、支援の与え方や受け方を段階的に実践してみてください。この仕組みの流れにより、スクラムチームはコーティングとメンタリングを実践することができるようになります。
「慎重に聴く」→「明確に質問をする」→「対立的な質問をする」→「アドバイスをする」
3. 実践するほど信頼が築かれる
Build Trust As You Go
スクラムチームには、信頼と心理的安全性が重要です。これらがなければ、スクラムチームは、スクラムフレームワークを効果的に用いることができません。もし、スクラムチームとステークホルダーの間に信頼関係がなければ、おそらく、彼らは直面している問題をすべて共有したがらないでしょう。このような状況だと、スプリントレビューでは、プロダクトの検査や、プロダクトバックログとロードマップへの適応が非常に複雑になってしまいます。心理的安全性が低いと、スプリントレトロスペクティブでチームメンバーは、安易な改善点だけを議論しがちで、見て見ぬふりをされた問題をスルーしようとします。つまり、スクラムチームにとって、信頼と心理的安全性は非常に重要な要因なのです。幸いなことに、信頼関係を築きながら進めていくのに役に立つ仕組みがリベレイティングストラクチャーには多くあります。
- あの人の成功物語(Appreciative Interviews)
隠れた「成功物語」が明らかになるにつれて、前向きな変がへの自発的な勢いとインサイトが解放されます。それは真の仲間同士の学びを呼び起こし、建設的なエネルギーを生み出し、参加者に貴重なインサイトを与えるでしょう。スプリントレトロスペクティブで、「このチームで経験した成功物語を話して」と尋ね、次のスプリントで集中すべき成功基準を特定するために、この方法を試してみてください。 - カンバセーション・カフェ(Conversation Cafe)
この仕組みを用いて、個人的なストーリーや経験、課題を共有します。小さなグループでは、全員が耳を傾け、共有し、学ぶ機会があります。スプリントレビューでこの方法を試してみてください。「これまでに作ったプロダクトの良い点、悪い点、驚いた点は何がありましたか?」 - 聴いて・理解して・尊重して(Heard, Seen, Respected)
信頼と心理的安全性をもたらす2つの要素である共感と思いやりを築きます。スクラムチームに、自分達の意見を聴いてもらえなかったり、理解してもらえなかったり、尊重されていなかったりと感じたときにそのストーリーを話してもらいます。賢い質問をする必要はありません。積極的にお互いの話を聴きます。ただ、聴くだけでいいのです。それによって共有させる内容に大きな効果があることがわかるはずです。
4. 失敗しても学びがあれば良いと促す
Learn by Failing Forward
複雑な課題に直面したとき、シンプルな解決策が見つからないと簡単に行き詰まってしまうことがあります。スクラムチームは分析麻痺状態に陥るかもしれません。多くの場合、前進するための最良の方法というのは、ただやってみるだけです。小さな実験を行う、自分のアイデアや仮説を検証する、何がうまくいき、何がうまくいかないかを理解するのです。そして、失敗しながら学ぶのです。
この原則は、高い信頼関係が築ける環境で最も効果的に機能するので、「信頼関係を築きながら進める」という原則にも取り組んでみてください。
この原則を支えるリベレイティングストラクチャーでは以下です。
- 15%ソリューション(15% Solutions)
「100マイルの旅も一歩から」この言葉は、小さなことから始めることで大きな変化を引き起こすことを意図したリベレイティングストラクチャーにおける15%ソリューションを要約しています。正しい方向への小さなステップを確認することで、分析麻痺を克服します。それぞれのスクラムイベントを15%ソリューションで終えることを推奨するほどです。これは、スクラムチームが各イベントを実行可能なものにすることを後押しするものになります。 - シフト&シェア(Shift & Share)
この仕組みは、スクラムチームが短いサイクルでアイデアやプロダクトを披露し、有意義なフィードバックを収集するのに役に立ちます。1時間以内であれば、大きなグループに全員が参加し、体系的で、建設的な方法ですべての声を聞くことができます。複数のチームでバックログリファインメントする場合や、大規模でのスプリントレビューに理想的です。 - 経験共有金魚鉢(UX Fishbowl)
この仕組みを用いて、解決策を押し付けられるのではなく、共に学べる環境を作ることができます。この仕組みの内側の輪で問題を議論し、経験を共有することを後押しします。外側の輪は、体型的に、話を聴き、メモを取り、質問をしていきます。スクラムチームとして、ステークホルダーやより広い組織と共にこれを用いることで、共通理解と支援を築いていけます。
5. 自分たちの自己発見を実践する
Practice Self-Discovery Within a Group
効果的なスクラムチームは、自分たちで解決策を発見する方法を学んでいます。彼らは、問題や質問、そして対立さえも透明性のために共に取り組みます。彼らは、自分たちのスキルや知識、経験のすべてを駆使して、創造性を刺激し、アイデアを生み出していきます。外部の人材に依存することなく、新たなインサイトや発見に対して、即座に判断し、行動する権限を持ち合わせています。
自己発見を実践するのに役立つリベレイティングストラクチャーは以下になります。
- ヤバい質問(Wicked Questions)
この目的は、ヤバい質問に対して単一の答えをみつけることではなく、一見すると逆説的に見える現実が併存していることを透明にすることです。両方の現実を受け入れることによって、スクラムチームをより深い戦略的な思考に導いてくれて、新しい可能性を探ることができます。 - 発見とアクションのための対話(Discovery & Action Dialogue)
スクラムチームが直面する問題に対して、ローカルな解決策を考案するのを支援します。あきらめたり、他でうまくいった「ベストプラクティス」にすぐに他を出したりするのではなく、チームが問題や解決策の可能性を慎重に分析し、全員がその両方にどのように貢献できるかを支援します。この仕組みは、バックログリファインメントやスプリントプランニングの際に試してみると良いです。行き詰まったときにチームがプロダクトバックログアイテムをどう実装するのかについて解決策を見出すのに役に立ちます。 - みんなの未来予想図(Critical Uncertainties)
もっともらしいが予測不可能なさまざまな未来に対応するための戦略を開発します。これのより、スクラムチームは現在の戦略の実行可能性を迅速に検証し、将来の課題にも迅速に対応する能力を築くことができるようになります。この仕組みを使うことで、より多くのレジリエンスが生まれていきます。つまり、システムを積極的に形成し、変化に反応する準備ができる能力です。すべてのスクラムチームが習得すべき仕組みです。
6. 自由度と当事者意識を高める
Amplify Freedom AND Responsibility
スクラムのフレームワークには、「プロダクトゴール」、「スプリントゴール」、「完成の定義」という3つの確約(コミットメント)があります。プロダクトゴールは、集中すべき長期的なゴールを記述するものです。これは方向性を示し、スクラムチームのコンパスとして機能します。スプリントゴールは、短期的な明確さとガイダンスを提供するものです。これによって、チームはスプリント中に取り組むべきことのトレードオフを行うことができます。最後に、完成の定義には、期待される作業の品質が記述されたものです。スクラムチームは、これらの確約(コミットメント)に沿うことを追求する責任があります。しかしながら、それをどのように達成するかは、スクラムチームが自由に決めることができます。
この原則を支援するリベレイティングストラクチャーは以下です。
- これだけ!(Min Specs)まず、考えられるすべての選択肢をブレインストーミングし、目的達成のために絶対に必要なものに絞り込みます。スクラムチームでは、スプリントゴールを達成するためにスプリントに絶対に必要な作業を「これだけ!」で決定することができます。または、完成の定義に含まれなければならない必須のルールです。
- 持ちつ持たれつ(WINFY)
「What I Need From You」(WINFY)は、グループが自分たちのニーズを明確に表現し、他の人たちがその要求に明確に応えることを支援するものになります。例えば、スクラムチームやステークホルダー、マネジメントを集め、成功するためにお互いに何を求めているかを議論します。 - 統合と自律のはざまで(Integrated Autonomy)
「統合と自律のはざまで」は、グループがどちらか一方(Either/or)から両方(both/and)の思考に移行することを支援するためにあります。現実世界で直面する課題の多くは、簡単に答えが出るものでありません。異なる解決策が真になったり、同時に発生したりすることもあります。どんなに困難な状況に見えても、この仕組みは、スクラムチームは何が可能かをみる手助けをしてくれます。行動する自由を可視化し、具体化していきます。
7. 可能性を強調する: まだ見ぬ良いアイデアがあると確信する
Emphasize Possibilities: Believe Before You See
「高望みをしよう、無茶をやってみよう(Shoot for the stars, aim for the moon)」いい言葉ですが、スクラムチームの一員として、組織的な泥沼に完全にハマってしまった時には、たぶんこの言葉はかなり役に立たないと思うのではないでしょうか。スクラムチームが多くの依存関係や障害物に直面すると、やる気を無くして、不幸せになり、フラストレーションが貯まるかもしれません。このようなときには、実際に可能なことに集中するのが賢明です。ポジティブなことに集中して、モチベーションを上げていくことが必要です。
訳注: Shoot for the stars, aim for the moon の役は、#RSGT2022 の Discord チャンネル #サイゼリヤ でご歓談中の皆様に検討していただきました。最終的に、@sato_ryu さんの訳を充ててみました。なお、サイゼリヤは、@Tommy1969さんのオカンが好きなご飯屋との情報も。
リベレイティングストラクチャーでは以下が役に立ちます。
- 何が、だから何で、それで何を(What, So What, Now What)
この基礎的な仕組みは、スクラムチームが一歩下がって何が起こっているのかを考えることを問いかけることで導きます。これにより、私たちの経験を3つのステップに分解することで、思考を構造化するのです。「私たちは何に気が付いたのか?」、「だから何でそうなのか?」、「それでここからどこへ向かうのか?」です。この仕組みを用いて、スクラムチームが実際に何が起こっているのかを目の当たりにしたり、理解したりするのを手助けしてくれます。私たちチームにおける本当の障害物は何なのか?それを解決するために可能なことは何なのか? - 付き合いの良いネットワーク網(Social Network Wedding)
LiberatingStructures.com の説明にあるように、「グループ全体のために、既存の人間関係のネットワークの中にどんなリソースが隠されているか、そしてそのリソースを利用するためにどんなステップを踏めばいいのかを迅速に明らかにする」ためのものです。スクラムチームのキックオフの際や、リブートする際に用います。チームが行き詰まったときに誰から支援を受けられるか、スプリントレビューでどのようなステークホルダーを招待するべきかが見えるようになります。
8. 創造的破壊を誘発してイノベーションを可能にする
Invite Creative Destruction To Enable Innovation
イノベーションには、時として創造的な破壊が必要になります。新しいことに挑戦するためには、まず他の何かを手放さなければならないことがあります。あるいは、これまでの習慣や行動を完全に見直す必要があります。スクラムチームも同様です。スクラムチームが成功したいのであれば、既存の振る舞い、プロセス、仕事のやり方を創造的に破壊することが求められます。それは簡単のことではありません。変化することはとても大変です。チームは、自分たちや、自分たちの環境に対する抵抗に直面することになります。しかし、真のイノベーションを実現するためには、創造的破壊が必要なのです。
幸いなことに、以下のリベレイティングストラクチャーは、あなたたちを適切な道へ導いてくれることでしょう。
- トゥリーズ(TRIZ)
TRIZの仕組みは、イノベーションと生産性を制限する活動の創造的破壊へと導きます。それは、楽しいカタルシスのある方法で行われ、すべての人を巻き込み、その過程でいくつかの笑いを生み出すに違いないのです。しかし、この笑いは、スクラムチームが本当に辞めるべき現実を痛烈に示しています。 - エコサイクル計画(Ecocycle Planning)
未検討のままでいるもの(でもそうすべきではないもの)と、検討していないもの(でも検討すべきもの)を探索してみてください。これは、個人でもグループでも行うことができます。スクラムチームと共に用いることで、プロダクトバックログアイテムをマッピングしたり、チームのすべての活動を可視化したり、チームに影響を与える人たちや部門を透明にしたりしてみましょう。つまり、透明性を確保し、検査と適応を行うということです。 - パナーキー(Panarchy)
この仕組みは、強力な視点を提供し、システム思考の実践を可能にします。また、おそらく最も煩雑な仕組みにもかかわらず、パナーキーは、すべての人を巻き込み、あらゆるレベルで変化を引き起こすというリベレイティングストラクチャーのすべての約束を取りまとめています。これをスクラムチームで試してみてください。組織内のすべての異なるレベルがチームにどのような影響を与えているかを見ることができます。
9. 真剣な中でも遊び心も楽しむ
Engage In Seriously-Playful Curiosity
スクラムチームが利害関係の強いプロダクトを作っている場合、すべてを真剣に考えがちです。楽しさと真剣な仕事を同時に行うことはできないのでしょうか?そんなことはありません。以下のリベレイティングストラクチャーは、実は楽しむためのものでもありません。遊び心のある好奇心を刺激したり、課題を可視化することで脳の全く別の部分を使ったり、軽くて真剣なインタビューによって共通理解を築くことに重点を置いているのです。
ここで関連するリベレイティングストラクチャーは以下です。
- 即興劇(Improv Prototyping)
困難なシナリオを再演してみて、それを演じることによって、さまざまな振る舞い戦略や介入策を共同で考案します。この仕組みがもたらす工夫は、シナリオを紹介した人が「監督」になり、他の人が「役者」になることです。これにより、で監督は遊び心を持って戦略と振る舞いと介入を試みることができます。 - みんなで描く(Drawing Together)
非言語的な表現によって、インサイトや進むべき道を明らかにします。言語によるインタラクションの代わりに、5つの抽象的なシンボルによる制約のあるビジュアル言語を用います。これにより、とても楽しく、スクラムチームがまったく違った方法でお互いをより深く知ることができます。 - セレブインタビュー(Celebrity Interviews)
エキスパートやリーダーが、通常のプレゼンよりも深く魅力的でインタラクティブな方法で、その経験やインサイトをグループと共有するのを手助けする仕組みです。セレブインタビューでは、プレゼンの最後まで質問をしないのではなく、誰もが頭に抱いた疑問から会話を構成していきます。プロダクトオーナーや、マネージャー、ステークホルダーを次のセレブインタビューに参加してもらいましょう。
10. 明確な目的を持って始める
Never Start Without Clear Purpose
スクラムチームにとって、明確な目的を持つことは不可欠です。明確な目的は、チームの存在を明らかにし、彼らのコラボレーションに意味を与え、インスピレーションと強固な基盤を提供してくれます。特に難しい局面では、説得力のある目的が、チームの結束を高め、前進するのに役に立ちます。スクラムチームが明確な目的を定義するのに役に立つ強力なリベレイティングストラクチャーがいくつかあります。
以下がその例です。
- 9回のなぜ対話(Nine Whys)
スクラムチームでは、9回のなぜ対話を使って仕事の目的を明確にすることができます。私たちはさまざまな用途でこれを幅広く用いています。例えば、スクラムチームでは、チームの立ち上げの一環として、一緒に仕事をする最も深い理由を識別するために用います。プロダクトのキックオフでは、なぜそのプロダクトが存在すべきなのかを明確にして、伝達します。あるいは、戦略やロードマップの取り組みの一環として、まず目的を明確にして、次に実際のゴールを明確にしていきます。 - ストーリーボード(Design Storyboards)
この仕組みは、グループの目的を最も効果的に達成するために、どのように時間を過ごしたいかを目的意識を持って考えるためにあります。スプリントプランニングや、デイリースクラム、スプリントレトロスペクティブあるいは、スプリントレビューのための新しいフォーマットを作るためにこのストーリーボードを試してみましょう。きっとよりさらに効果的になるはずです。 - 目的から実務へ(Purpose-To-Practice)
目的から実務へ(P2P)はあらゆる取り組みの素晴らしい出発点となります。例えば、チームのキックオフや、新規プロジェクト、新しいユーザーグループの立ち上げなどです。これらの取り組みも、目的を共有することで成功の可能性が高まります。P2Pの最初のステップは、この目的を一緒になって定義することです。そこからP2Pは、その目的を達成するために必要な他の要素、すなわち原則、参加者、構造、そしてプラクティスを取り上げていきます。これらの必須要素の定義には全員が参加するため、理解の共有が確実になり、自己組織化が促進されるのです。
おわりに
今回のブログ記事では、リベレイティングストラクチャーの10の原則を紹介しました。スクラムチームは、より効果的なコラボレーション、問題解決、戦略立案などのために、リベレイティングストラクチャーを利用することができるのです。リベレイティングストラクチャーを最大限に活用するためには、その原則を理解することが重要です。なぜならば、原理原則があるからこそ、プラクティスが機能するからです。このブログ記事では、どのような仕組みが特定の原則を強化するのかいくつの例を挙げました。これらはあくまで提案であり、主に原則と仕組みがどのように関連しているのかを理解して役立ててもらえることを目的としています。あなたのスクラムチームとその周囲の人たちを巻き込む、そして解き放つためにリベレイティングストラクチャーを利用できるようになれたら幸いです!
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本記事の翻訳者:
長沢 智治 – アジャイルストラテジスト
サーバントワークス株式会社 代表取締役。Helpfeel Inc. アドバイザリーボード。DASA アンバサダー/認定トレーナー。
『More Effective Agile』、『Adaptive Code』、『今すぐ実践!カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント』、『アジャイルソフトウェアエンジアリング』など監訳書多数。『Keynoteで魅せる「伝わる」プレゼンテーションテクニック』著者。
Regional Scrum Gathering Tokyo 2017, DevOpsDays Tokyo 2017, Developers Summit 2013 summer 基調講演。スクー講師。